けいれんは二分を越えたところで、少しずつ波を失った。
テオは男の子の体を押さえつけず、横向きの姿勢だけを保った。歯の間に指を入れようとした母親の手を止め、顎の下へ丸めたタオルを差し込む。唇の紫はまだ薄く残っていたが、呼吸は途切れていない。
「時間。最後に大きく震えたのは」
「二分四十秒くらいです」
ソジンの声はかすれていた。彼の手の中の携帯電話の画面には、止められた秒数が光っている。
「よし。ミラさん、経口補水液。なければ水に砂糖と塩を少し。氷は直接当てない。脇と首を冷やします」
いつの間にか戻ってきていた補助員のパク・ミラが、薬棚の前で慌ててうなずいた。保健支所の廊下には、さっきまで診察を待っていた親たちが壁に沿って並び、誰も動けずに見ていた。
男の子の母親は床に座り込んだまま、何度も子どもの名前を呼んでいた。返事はまだなかった。テオは瞳孔と首の硬さを確かめ、胸の上下を見た。けいれん後の深い眠りに落ちている。発熱は高い。皮膚は乾き、唇の端も割れていた。
「吐いていますか。下痢は」
「朝から、少し……水も、あまり飲まなくて」
「脱水があります。今は無理に口へ入れません。起きて飲み込めるようになったら、少しずつです」
「先生、死なないですよね」
母親の声は小さく、泣き声にもならなかった。テオは一瞬だけ返事に迷った。ソウルなら、検査室と小児科当直と点滴ラインがすぐ横にある。ここには古い体温計、残り少ない解熱剤、ぬるくなりかけた保冷剤しかなかった。
「今、呼吸はあります。けいれんも止まっています。ただ、原因を確認しなければなりません」
彼は男の子の腕をもう一度見た。肘から肩へ走る赤い線は、熱でさらに濃く浮いている。昨夜のカード、今日の一覧、古い日付。頭の中で、紙の上の線がこの細い腕へ戻ってきた。
グムレが黙って近づいた。さっきまでテオと向かい合っていた鋭さは、顔には残っている。だが膝をつく動きは早く、男の子の額へ濡れた布をのせる手つきは驚くほど静かだった。
「熱いな」
低い声だった。母親がすがるように彼女を見た。
「会長さん、うちの子、どうしたら」
「先生の言うとおりにしろ。泣くのは、あとだ」
言葉は冷たかったが、布を替える指先だけはやわらかかった。テオはその手を見て、何も言わずに脇の下へ保冷剤を当てる位置を直した。
男の子が浅く息を吸い、まぶたをわずかに動かした。母親が身を乗り出しかける。
「揺すらない。声だけ」
「ジフン、聞こえる? お母さんだよ」
名前を呼ばれた子どもは返事をしなかったが、硬く握っていた指が少し開いた。待合室の空気が一斉に緩む。テオは緩んだ分だけ、声を固くした。
「安心するのは早いです。次の船で必ず本土へ行ってください。小児科、血液検査、必要なら神経の検査も。紹介状を書きます」
「でも、明日は夫が海に……」
「今回は先延ばしにしないでください」
母親が言葉を失った。廊下の誰かが息をのむ。テオは続けた。
「今日のけいれんだけなら、高熱で説明できることもあります。けれど発疹と脱水、高熱が繰り返している。ほかの子にも似た症状があります。島で様子を見る段階は過ぎています」
「大ごとにしたら、みんなが……」
「大ごとにしなかった結果を、今ここで見ています」
自分の声が思ったより冷たく響いた。テオは言い直さなかった。母親が泣きながらうなずくまで、待った。
グムレは額の布を取り替え、立ち上がった。
「次の船に乗せる。あんたの旦那には、私から言う」
「会長さん……」
「礼はいらん。船賃を数えておけ」
それだけ言うと、グムレはテオのほうを見ずに背を向けた。廊下の住民たちを押しのけるようにして外へ出ていく。その背中は相変わらず硬かった。だが男の子の額に残った布だけが、まだ人の手の温度を持っていた。
昼を過ぎると、保健支所の入口にはまた別の列ができた。さっきのけいれんを見て逃げる者もいると思っていたが、実際には逆だった。薬だけ受け取るつもりだった老人が、震える手を隠さず差し出した。子どもの母親たちは、袖を自分からまくった。
「先生、うちの子も熱が出た日を書いてきました」
「水は、学校で飲んだのと家のと、分けて書けばいいですか」
「ボクナムじいさん、また同じ話を忘れてるんです。見てもらえますか」
気軽、というには不安が混じっていた。だが昨日までのように、診察室の敷居の前で名前を隠す空気ではなかった。テオは一人ずつ呼び、診察し、発疹の有無、発熱日、飲水場所、家の位置を紙に足した。紹介状を書き、船の時刻を余白へ添えた。行けない理由を責める代わりに、行くために何が要るかを確認した。
午後遅く、固定電話が鳴った。ソジンが受け、すぐに顔を上げる。
「先生。本土の病院からです。ボンシクさん」
テオは受話器を取った。海の向こうの雑音まじりの声は、ボンシクの意識がはっきりしてきたこと、呼吸状態は落ち着いていること、足の感覚はまだ弱いが治療を続けていることを伝えた。完全な回復とは言えない。それでも、死の縁からは遠ざかった知らせだった。
「分かりました。追加の所見が出たら、こちらにも連絡をください」
受話器を置くと、待合室の視線が集まっていた。誰も直接聞こうとはしない。テオは少しだけ声を上げた。
「ボンシクさんは、生きています。治療中です」
その一言で、廊下の奥から小さな息が漏れた。泣き出す者はいなかった。ただ、薬袋を握る手が少しゆるみ、誰かが隣の肩に触れた。グムレは外の窓辺に立っていたが、顔をこちらへ向けなかった。
夕方、最後の患者が帰ったあとも、テオはすぐに立てなかった。机の上には新しい診療録と紹介状の控え、発疹一覧、老人の症状表が重なっていた。一か月だけ。後任が来るまで。何度も自分に引いた線が、紙の束の下で少しずつ見えなくなっていた。
『僕が帰ったあと、誰がこの表を見る』
答えは出なかった。出ないまま、彼は模造紙を広げ直した。
子どもの発熱日を赤、発疹を青、老人の手の震えと記憶低下を黒で印をつける。今日増えた名前を加えると、ばらばらだった点はさらに不自然な列を作った。別の家。別の年齢。別の症状。けれど同じ日付の周辺に、老人と子どもが並んでいる。
五日前、十二日前、さらに前の月の同じ間隔。完全に同じではない。だから見逃されてきた。だが偶然として捨てるには、間がそろいすぎていた。
テオは叔父の古いカードをもう一度めくった。ハン・ジョンウの小さな字は、診断名の端にいつも短い言葉を添えている。湿疹。発熱。振戦。睡眠不良。そこに理由は書かれていない。まるで理由を書く場所だけ、意図的に空けてあるようだった。
診察室を片づけるころには、外の空は鉛色に沈んでいた。テオは薬棚を閉め、使ったタオルを洗面器へ入れ、叔父の机へ戻った。引き出しには古い処方箋、乾いた輪ゴム、使えない印鑑が雑然と入っている。上から順に確かめ、最後に一番下へ手を伸ばした。
重い引き出しは、少しも動かなかった。
テオは力を込めて引いた。木が短く鳴っただけで、前へ出てこない。鍵穴があった。小さな真鍮の縁は黒ずみ、しかし周囲だけは不自然に擦り減っていた。長いあいだ、誰かが何度もそこへ指を当て、鍵を差し、開け閉めしてきた跡だった。
叔父が最後に伏していた机。その一番下。ほかの書類をすべて古い箱に投げ込むように残した人間が、ここだけを閉じていた。
テオは鍵穴へ指を添えた。冷たい金属の縁に、かすかな油の匂いが残っている。引き出しの奥で、紙が一枚だけずれたような乾いた音がした。
その音を聞いた瞬間、彼は悟った。
叔父は、記録を残していなかったのではない。誰にも触れさせない場所に、まだ何かを隠していた。
その島では、雨が降る前に患者が増える
11話 叔父が閉じた島の傷口
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