テオはペットボトルを光にかざしたまま、息を止めるように底を見ていた。黒い粒は揺れなかった。瓶の内側に薄く沈み、明け方の光を受けても土のようには濁らず、金属粉のように鈍く光った。
「振らないでください」
テオが低く言うと、ミラは両手を胸の前で止めた。
「このままです。底の沈殿が動くと、どのくらい沈んでいたか分からなくなります。誰かに渡す時も、立てたまま。ふたも開けない」
「はい。立てたまま、ですね」
「番号札がないなら、この瓶だけ別管理にします。回収場所、受け取った人、時刻。思い出せる分を全部書いてください」
ミラはすぐ受付へ戻った。テオは瓶を透明袋に入れ、袋の外側に黒いペンで時刻を書いた。午前六時十二分。学校回収水筒、番号札なし。黒色沈殿あり。振とう禁止。
その文字を書き終える前に、廊下から子どものうめき声が聞こえた。保健支所の待合室は、夜を越した親たちの疲れた息で重かった。床に敷いた毛布の上で、軽症に分けたはずの子がまた腹を押さえて丸まっていた。壁際ではスアが点滴をつながれ、母親の膝に頭を預けていた。
「尿が出た子はいますか」
テオが聞くと、ミラが記録用紙を持って戻ってきた。
「スアさんが少量。もう一人、三年生の男の子が紙コップ半分くらいです。あと、給食室の前で倒れた女の子はまだです」
「その三人を先に採ります。血液と尿。尿が出ていない子は無理に出させません。点滴を続けて、出た時点で採取します」
母親たちの顔が一斉に上がった。血を採るという言葉だけで、疲れた空気がまた緊張に変わった。
「本土へ送るんですか」
スアの母親がかすれた声で聞いた。
「船が止まっています。すぐには送れません」
テオは隠さず答えた。
「でも、採っておかないと、あとで何が体に入ったか分からなくなります。採取時刻と症状を合わせて残します。船が動いたらすぐ検査機関へ送ります」
「冷やしておけば大丈夫なんですか」
「全部が大丈夫とは言えません。だから条件を書きます。冷蔵保管、採取時刻、採取した場所、飲んだ水の出どころ。あとで検査する人が判断できるようにする」
テオの声は平らだった。安心させるための言葉ではなく、迷わせないための言葉だった。母親は泣きそうな顔でうなずき、スアの腕をそっと差し出した。
細い血管は脱水で沈んでいた。テオは温めたタオルを巻き、駆血帯を短く使い、針先を浅く入れた。スアのまぶたが震えた。
「すぐ終わります。動かないで」
赤黒い血が採血管へ上がった。量は多くなかった。だが今は十分だった。テオは管を抜き、ラベルを貼った。
チェ・スア。午前六時二十九分。血液。学校水道および浄水器水摂取疑い。嘔吐、発熱、腹痛、発疹。
続けて男の子から血液を採り、紙コップの尿を滅菌容器へ移した。ふたを閉める手つきは、瓶の沈殿を見る時と同じように慎重だった。三人目の女の子は尿が出ておらず、血液だけを先に採った。テオは採取順を間違えないよう、ミラに声を出して復唱させた。
「二番、男児。血液、尿。午前六時四十一分。水筒は学校で追加給水。底に沈殿なし」
「三番、女児。血液のみ。午前六時五十二分。尿は未採取。浄水器水摂取疑い」
ミラの声は少し震えていたが、最後まで崩れなかった。ソジンは横で保冷剤を古いタオルに包み、保健支所の小さな冷蔵庫の棚を空けていた。ワクチン用の箱を奥に寄せ、温度計を見て、扉を開ける時間を短くした。
「冷蔵庫、四度から六度の間です」
「開閉を減らしてください。試料は一段目。食べ物は入れない。水のサンプルは下段、倒れないように」
「はい」
ソジンは返事だけして、一本ずつ容器を立てた。彼の細い顎には乾いた汗の跡があり、目は充血していた。それでもラベルの向きは揃っていた。乱れたものを一つでも減らそうとしている手だった。
グムレが戸口からのぞいた。
「まだ採るのか」
「重い三人だけ先に。全員分は無理です」
「船が動かなきゃ、ただの瓶だろう」
「瓶にしておかなければ、ただの噂になります」
グムレは黙った。短い沈黙のあと、低く言った。
「じゃあ、瓶を倒すなと外にも言っておく」
彼女が廊下へ出ると、親たちのざわめきが少し下がった。誰かが泣き、誰かが水を求め、誰かが北の貯水槽の名を口にしかけて飲み込んだ。テオはその全部を聞きながら、記録用紙の余白に赤線を引いた。
検体。水筒。管理名簿の切り取り。名札。叔父の綴り。
騒ぎが少し収まったのは、朝が完全に明けてからだった。子どもたちは浅く眠り、親たちは椅子にもたれて目を閉じた。ミラは受付で採取時刻の表を清書し、ソジンは冷蔵庫の前に椅子を置いて座った。扉が勝手に開かないよう、古いゴムの締まりを何度も確かめていた。
テオは診察室へ戻り、机の上に叔父の記録綴りを広げた。紙は湿気で波打ち、赤い丸や青い線が何度も重なっていた。そこへ、布袋から出た金属の名札を置いた。ユン・ミンホ。ハン・ジョンウの欠けた朱印。裏側の細い油性ペンの数字。
三、十七。
その数字を、テオはもう一度見た。旧暦三月十七日。老人たちが玉石浜で繰り返した日。死亡診断書の四人が並ぶ日。消された五人目の処置記録が残る日。
だが叔父の綴りの別のページに、小さく書き添えられた数字があった。ユン・ミンホの名が消えかけた行の横、死亡日付の欄から少し外れたところに、叔父の癖のある細い字で西暦の日付が残っていた。
十八年前の九月。台風特報がドレ島全域に出された日だった。
テオは港の気象日誌の写しを引き寄せた。風速、気圧、欠航、避難放送。ページの端に赤字で「特報発令」とあった。同じ日付だった。偶然ではなかった。叔父は旧暦の丸だけでなく、外へ通じる公式の日付も残していた。
「……その日ですか」
背後でソジンの声がした。
テオは振り返った。いつの間にか、彼は診察室の入口に立っていた。冷蔵庫の前にいた時より顔色が悪かった。だが目だけは、机の上の名札から動かなかった。
「十八年前の台風特報の日です」
テオは言った。
「公式には、船着き場の事故で四人が死亡した日。叔父の記録では、その夜にユン・ミンホさんが保健支所で処置を受けています」
ソジンは何も言わなかった。唇を固く結び、まぶたを閉じた。まるで、その日付を見なかったことにするために、目そのものを閉じ込めようとしているようだった。
テオは待った。問いを重ねれば、答えは引き出せるかもしれない。だがそれは今、検体を振るのと同じだった。沈んでいたものを乱し、何が底にあったのか分からなくなってしまうからだ。
ミラが受付で紙をめくる音だけがした。廊下の遠くで、グムレが誰かに「瓶を倒すな」と低く叱っていた。支所の外では、風がまだ湿っていた。
やがてソジンは目を開けた。
「先生」
声は乾いていた。
「今、話すんですか」
テオが聞くと、ソジンは首を横に振った。
「ここでは無理です」
彼は名札を見た。触れようとはしなかった。ただ、その名前が机の上にあることを確かめるように、長く見つめた。
「付いてきてください」
そう言って、ソジンは先に歩き出した。テオは記録綴りを閉じ、名札を布袋に戻して内ポケットへ入れた。ミラが顔を上げたが、彼は短く言った。
「冷蔵庫を見ていてください。温度が上がったら記録を」
「分かりました」
外へ出ると、朝の明るさはいつの間にか鈍い午後へ変わっていた。夜から続いた騒ぎで、時間の輪郭が崩れていた。空には厚い雲が残り、その下で村の道は濡れて黒く光っていた。
ソジンは車に乗らなかった。保健支所の坂を下り、北の干物小屋の方へ歩いていった。テオは少し後ろを追った。誰も二人を呼び止めなかった。グムレだけが廊下の端から見ていたが、何も言わず目をそらした。
玉石浜へ近づくにつれ、波の音が大きくなった。丸い黒石と灰色の石が濡れて、暮れかけた空を薄く映していた。潮は引き始めていたが、砂はまだ柔らかく、歩くたびに靴底の跡が残った。
ソジンの足跡はまっすぐ黒い岩へ向かっていた。以前、老人たちが立ち、古い花束が見つかり、処方箋の半分が落ちていた場所。十八年前の名前が、海に向かって何度も呼ばれていた場所。
テオは、その背中を見ながら理解した。ソジンは今、証拠の説明をしようとしているのではなかった。十八年のあいだ誰にも渡せなかった時間を、初めて口に出そうとしていたのだ。
黒い岩の前で、ソジンは足を止めた。濡れた砂に、二人分の足跡が並んで刻まれていた。波が近づけばすぐ消える浅い跡だった。
しばらくして、ソジンは海を見たまま言った。
「十八年前の台風の日、ここで待っていた人間を、僕は一人だけ知っています」
その島では、雨が降る前に患者が増える
26話 ソジンの告白と名札の影
次の話