赤いネオンが落ちたあと、屋根裏には無線受信機の微かな熱だけが残る。
ドギョムは梯子から足を戻し、低い梁の下で膝をつく。ヘナは階下へ降りず、息を殺して受信機を見ている。外の通りでは、遠くのサイレンが雨に削られて細くなる。
「ミゲル」
ドギョムは送信ボタンを押さない。口の中だけで名前を置く。少年の周波数は切れている。代わりに別の短いノイズが入り、次いで震えた声が戻る。
「……南側分岐。郡道八十一号線。清掃車、曲がりました」
ヘナの指が床板をつかむ。
「リハビリセンターのマークです。白じゃなくて、泥で灰色に見える。後ろに窓があります。でも中は見えません。未舗装路へ入りました。峡谷の奥です」
「距離は」
「二百ヤードくらい。俺、自転車です。ライトは消してます」
「追うな」
「でも」
「場所を言え」
ミゲルは歯を食いしばる音を立てる。
「古い給水塔のところです。南の分岐の先、柵が倒れてる。清掃車は鉱山の方へ行きました。姉さんが乗ってるかもしれない」
「そこを離れろ。道の東側、排水管の中へ入れ。誰にも見られるな」
「ドギョムさん」
「今すぐだ」
通信が切れる。少年が従ったかを確かめる時間はない。ヘナが低く言う。
「車が要ります」
「あるのか」
「裏の古い配送トラック。夫が肉屋から買ったものです。エンジンはかかる。ブレーキは信用しないで」
ヘナは階下へ降り、すぐ戻る。手には錆びた鍵束と、黒い布で巻いた懐中電灯がある。左手首の火傷の跡が、暗がりで白く浮く。
「プレートは泥で読めません。でも音が大きい」
「音を使う」
ドギョムはダッフルバッグから小さな工具、包帯、手袋を抜く。拳銃はない。弾の入った武器を持てば、ラウクの紙に都合のいい一行が増えるだけだ。
二人は裏口から出る。雨は細くなっているが、砂と油の匂いが濃い。食堂の裏手、壊れた冷蔵庫と空き樽の間に、青い配送トラックが沈んでいる。フロントガラスは片隅にひびが入り、荷台の側面には昔の肉屋のロゴがかすれて残る。
ドギョムはボンネットを開け、バッテリー端子を締め直す。エンジンは最初の二回で空回りし、三回目で濁った咳を吐く。彼はすぐライトを切る。
「戻らなかったら」
ヘナが言いかける。
「床下の物を動かせ。梁のメモは最後だ」
「そういう返事を聞きたいわけじゃない」
「わかってる」
ドギョムはそれだけ言い、トラックを路地へ出す。ヘナは扉の影に立つ。見送る顔ではない。残る場所を守る顔だ。
町の南へ出る道は、検問の光を避けて細い住宅街を縫う。ドギョムはライトを点けない。濡れた路面の反射と、遠いカジノのネオンだけで進む。古い車の音は大きい。だから近づきすぎない。峡谷の風と採掘場の鉄板の音に混ぜる。
郡道八十一号線の南側分岐に近づくと、前方の闇に清掃車の尾灯が一瞬だけ赤く浮く。リハビリセンターの丸いマークが、泥の上から薄く見える。清掃車は本館へ向かう舗装路を外れ、倒れた柵の横から未舗装路へ入っていく。
ドギョムは分岐を過ぎ、いったん直進する。百ヤード先で路肩の草地へ車を入れ、エンジンを落とす。雨の音を聞く。清掃車のエンジンは奥へ下っていく。彼は車を転がして惰性をつけ、エンジンを再始動して分岐へ戻る。
未舗装路は峡谷の縁を削るように続く。左右の岩壁は黒く、ところどころに古い採掘用の鉄柵が倒れている。道路脇には郡の新しい小さな標識が二本立つ。古い鉱山名を消すように、白い板に黒文字で「立入禁止、郡有財産」と打たれている。
『ジョアンの動画と同じ札だ』
ドギョムは声に出さない。清掃車との距離を保つ。近づきすぎればバックミラーに映る。離れすぎれば分岐を見失う。
十数分後、峡谷の奥で清掃車が止まる。そこはリハビリセンター本館ではない。古い銅山の坑口だ。山肌に開いた黒い口の前だけ、新しいコンクリートが四角く敷かれている。雨水はそこだけ弾かれ、まだ白っぽい縁を見せている。
ドギョムはトラックを岩陰に入れ、エンジンを切る。外へ出ると、靴底の砂利が小さく鳴る。彼は足を止め、坑口の方を見る。
清掃車の運転席から男が一人降りる。もう一人が坑口の脇にある鉄扉へ向かう。後部扉は開かない。中にいる者を下ろす場所ではない。奥へ入れるための受け渡しを待つ姿だ。
坑口の両側には新しいコンクリートの帯が伸び、古いレールの上を覆っている。昔の鉱山標識があったはずの場所には、真新しい郡有財産の看板が打ち込まれている。雨ざらしの岩に対して、そこだけ人の手が新しい。
ドギョムは岩壁に沿って低く進む。視界の端で、坑口脇の換気塔が見える。錆びた円筒。だが根元の鉄板だけが新しい。古い赤錆の上に、最近外して戻した跡がある。ボルトは四本。二本は古く、二本は銀色に光る。周囲にはコンクリート粉が雨で溶けきらずに残っている。
彼は手袋越しに鉄板へ触れる。まだ縁が鋭い。ずっと閉じていた設備ではない。ここは使われている。空気が上がっている。薄い薬品の臭いと、ディーゼルの熱が混じる。
ジョアンの最後の撮影ファイル。白いバン。真新しい郡有財産の札。「中へ入れろ」。途切れた地点。
すべてが、今見ている坑口へ重なる。
清掃車の後部で、内側から一度だけ鈍い音がする。叩いたのか、車体がきしんだのかはわからない。ドギョムの肩が一拍だけ動く。今飛び出せば、二人は倒せる。だが坑口の中の人数がわからない。アルマが車内にいる保証も、追加の一名が誰なのかも、まだない。
彼は拳を開く。殺すためではなく、壊すために来た。その順番を崩せば、次の扉は閉じる。
鉄扉の奥から短い合図が鳴り、清掃車の男が後部へ回る。ドギョムは岩陰へ沈む。扉が少しだけ開く。中から灰色の作業服の袖が見える。手首に輪がある。顔は見えない。
男が怒鳴る。
「頭を下げろ」
その声は坑口に吸われる。ドギョムは身を低くしたまま、輪の色を目に焼きつける。灰色。ミゲルの報告と同じだ。
人影はすぐに鉄扉の中へ消える。清掃車の後部扉が閉まる。受け渡しは一分もかからない。清掃車はそこで反転せず、坑口横の狭い道へさらに進む。別の出口がある。
ドギョムは追わない。換気塔の位置、坑口の向き、看板の杭、コンクリートの端、清掃車が消えた脇道を頭の中に打ち込む。星形の中心は、紙の上の黒い穴ではなくなった。湿った岩と新しいボルトと、人を運ぶ車の匂いを持つ場所になった。
戻る道で、彼はミゲルを探す。給水塔の東、排水管の口に、小さな自転車の反射板が伏せてある。少年の姿は見えない。隠れている。今はそれでいい。
配送トラックへ戻り、エンジンをかける。下り坂ではライトを点けず、ブレーキに頼らず、低いギアで進む。峡谷の上に出たところで、無線受信機がポケットの中で割れるように鳴る。
ラウクの声だ。
「全車両へ。よそ者の検問だけ見るな。町の車も見る。古いトラック、配送車、農場車両。ナンバープレートの末尾二桁まで覚えろ。今夜からだ」
ドギョムはハンドルを握ったまま、バックミラーを見る。泥で隠れたはずのトラックの後部プレートが、雨に洗われて半分だけ光っている。
無線がさらに短く鳴る。
「まず、ヘナズ・ダイナー周辺の車両から始めろ。裏手に止まっていた青い配送トラック、末尾は二七。見失うな」
ドギョムは初めてブレーキを踏む。古いトラックが濡れた砂利の上で横へ滑り、峡谷の暗い路肩に斜めに止まる。
清掃車で人を鉱山まで運んでいる。ラウクはもう、その道筋ではなく、追った者の帰り道を見張り始めている。
法が遅すぎる町で、今日倒すべき悪党を倒す男
22話 星の中心にある穴
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