赤い補助灯が一秒ごとに脈を打つ。三十秒という数字が、作業場の壁より近くまで迫っている。
ドギョムは二つ目の鉄網の前に膝をつく。鍵束の金属が手の中で鳴りかけ、すぐ力強く握り込んで音を殺す。古い南京錠はミゲルの区画より硬い。油が差されている。ここだけは、毎日開け閉めされていた。
一本目は入らない。二本目は奥で止まる。三本目を半分だけ差し、親指で錠の腹を押す。中の爪が上がる音を待つ間、アルマは膝をついたまま動かない。彼女の横には、年の近い少女が一人、もっと小さい少年が二人いる。全員が、声を出せば何かを失うと知っている目をしている。
かちり、と錠が落ちる。
ドギョムは扉を大きく開けない。人ひとりが抜ける幅だけを作り、まず小さい少年の一人を抱き上げる。骨ばった体は軽い。軽すぎる。薬品箱の陰に置いた空の鉱車へ運び、麻布を広げた上に寝かせる。
「声を出すな。目を閉じていろ」
少年はうなずかない。ただ瞬きだけをする。
次にもう一人の少年。足首に擦れた跡があり、歩かせればレールで音を立てる。ドギョムは彼を肩に担ぎ、先の少年を乗せた二両目の鉱車へ寝かせ、それをミゲルを隠した先頭車両の後ろへ引き寄せる。
次に三人目の少女。自分で立とうとするが、膝が抜ける。アルマが反射で支えようとし、鎖の音を思い出したように手を止める。
ドギョムが倒れかけた少女の脇を支える。
「いい。こっちを見ろ」
少女の目が彼へ向く。恐怖の焦点を一点に集めさせる。その間に足を動かす。彼女を三両目の鉱車へ寝かせ、空箱を斜めに積む。荷崩れに見える高さ。呼吸の隙間。指の入る幅。全部を一度で決める。
無線が床で震える。
「二十秒」
マローンの声ではない。別の男が数えている。作業場の外側にいる誰かだ。点呼が切られたあと、外の人間はもう命令を待つだけの手になっている。
最後にアルマが鉄網を出る。裸足の足裏が油と粉の床に触れ、わずかにすべる。ドギョムは反射的に彼女の腕をつかみ、倒れさせない。手首の赤い跡が、灯りのたびに浮かんでは沈む。
「ミゲルは」
唇だけで問う。
「先に出した」
それだけで、アルマの肩から一瞬だけ力が抜ける。だが安堵は長く続かない。彼女は息を吸い直すより早く、作業場の端へ目を走らせる。キャビネット列。古い坑木の横に、事務用には大きすぎる金属の箱が並んでいる。そのいちばん端だけ、壁と同じ新しいコンクリートで囲われ、別の扉になっていた。
アルマの指がそこを指す。
「あそこ」
声はかすれている。けれど、はっきりしている。
ドギョムは振り返らず、まず鉱車の車輪止めを見る。動線を確保してから、アルマへ視線を戻す。
「何がある」
「女の人。毎日、咳が聞こえた。短く、二回。夜勤が交代する前に。誰かが水を持っていく音もした」
彼女は言葉を急がない。急げば泣きそうになるのを知っているからだ。一語ずつ慎重に置く。
「一度だけ、顔を見た。扉が少し開いた時。黒い髪を短く切ってて……ビラの人に似てた。ジョアン・リバースに」
ドギョムの視線が、坑木脇のコンクリートへ刺さる。
前に教会地下でアルマが言った場所。作業場奥のキャビネット列の端。ジョアンに似た短髪の女。資料室の壁に残っていたJRの爪痕。廃棄物トラック荷台の奥で見つけた、白いJRの文字が残る黒い紐片。
線が今、同じ場所で重なる。
彼はアルマを三両目の鉱車へ寄せる。彼女は横にならない。ほかの子供を見て、自分が起きていようとする。ドギョムはその肩を押さえた。
「寝ろ」
「歩ける」
「音が出る」
アルマは黙る。反論しない。鉱車の内側へ入ると、彼女は自分で麻布を引き、子供たちの足が箱に当たらないよう直す。肩は震えている。だが目は逃げない。ミゲルと同じ目だ。怖いものを見たまま、逃げる順番を覚えようとする目。
ドギョムは床の粉塵に指を立てる。短い線を一本引き、今いる作業場を示す。そこからレールをなぞり、鉱車が沈んでいる分岐へ小さな丸を置く。
「ミゲルの鉱車と同じレールだ」
アルマの目が指先を追う。
「一つ目の分岐は下へ行く。行くな。二つ目で上だ。空気が冷える。右の壁に古い換気口がある。格子は内側から押せる」
「D-3の……換気口」
「そうだ。そこまで行ったら、箱を落として音を作れ。追われたら鉱車を捨てて、格子へ入れ。戻るな」
アルマはうなずく。小さく、しかし一度だけ確実に。
ドギョムは三両を順に押す。ミゲルの隠れた先頭車両、子供二人の乗る二両目、そしてアルマと少女のいる三両目。錆びた車輪は鳴りたがる。彼は車体を押す手の位置を変え、レールの継ぎ目の手前で力を抜き、音を油の膜へ逃がす。
闇が鉱車を飲み込む。ミゲルのいる箱の隙間から、一度だけ目が見えた。ドギョムは何も言わない。言えば少年が返したくなる。返せば声になる。
三両はゆっくりと分岐の奥へ沈み、赤い補助灯の届かない場所へ入っていく。
無線がまた鳴る。
「作業場、応答なし。閉じる準備」
ドギョムは振り返らない。鉱車が分岐の暗がりへ完全に消えるまで待つ。最後の車輪の縁が見えなくなった時、ようやく彼はキャビネット列の端へ向かう。
金属キャビネットは郡リハビリセンター本館の資料室で見たものと同じ規格だった。郡有財産の古いラベルは削られ、代わりに番号だけが油性ペンで書かれている。端の区画だけは違う。扉の縁に厚い鋼板が増し張りされ、錠前は丸い黒の番号錠ではなく、外部セキュリティ業者の刻印が入った高い製品だった。
本館資料室の強化扉と同じ会社。
ドギョムは錠の下を指で探る。新しい傷。頻繁に開いた痕。水がこぼれた跡。扉の下から漏れる空気は、作業場の熱ではなく、閉じた部屋の湿った臭いを持っている。
錠前の横、コンクリートに何かが挟まっていた。黒い繊維だ。彼は爪先でそっと剥がす。短い紐片の端に、白く擦れた文字が残っている。
JR。
廃棄物トラック荷台で見つけた黒い紐片と同じ幅。同じ素材。ジョアンは資料室の後、あのトラックでここまで運ばれた。途中で一片を残し、最後にこの扉の前でもう一片を残した。
それだけではない。
扉の横のコンクリートに、爪で引っかいたような文字が刻まれている。『J』。『R』。前に資料室で見たものより深い。血で固まった線ではない。粉塵を削った新しい白さが、補助灯の赤に照らされている。
そしてその下に、もう一行。
爪で引っかいたような短い線が、今夜伸びたばかりのように生々しく残っている。
ドギョムの手が止まる。
壁の向こうで、女が咳をした。短く、二回。
無線機が床で叫ぶ。
「閉じろ。子供の区画も、JRの扉も、全部だ」
ドギョムは黒い錠前へ鍵束を持ち上げる。赤い補助灯が一秒ごとに彼の手を照らし、そのたびに、新しいJRの傷だけが白く浮かび上がった。
法が遅すぎる町で、今日倒すべき悪党を倒す男
76話 生きていたジョアンの証言
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