その言葉のあと、地下室は道具箱の中身をひっくり返したように動き出す。
ドギョムはアルマに、断熱材へ挟んでいた封筒ノートの写しを引き抜かせ、濡れた外側のビニールをその場で裂かせる。ディナは一部を自分の外套へ、もう一部をヘナへ渡す。グラディスは外来受付端末を布で包み、南の食料品店の冷蔵倉庫へ出す順番を口の中で繰り返す。ミゲルは充電器を抜き、赤と黒の機体から光る部品を外して弁当箱の底へ隠す。
ドギョムは最後に換気口の格子を見た。外から触れた手は、まだ中を知らない。だが、場所はもう知られている。
決行日の夕方、教会地下室のコンクリートの壇の上には、五枚の紙が一列に並ぶ。
郡コンベンションホールの平面図。分岐D-3の図面。フィントン宅から旧車両登録事務所脇の路地へ続く略図。マローンの砂漠滑走路の座標。古い鉄道駅と傾いた信号所。
紙はどれも湿気で端が反っている。だが線は太い。迷う余白はもうない。
ドギョムは腕時計を外し、壇の中央に置く。秒針は薄い音で進む。雨と発電機の振動の下でも、その音だけは全員の耳へ残る。
「二十三時ちょうど」
彼は会場の図面と、グラディスが持つ送信先一覧を指でつなぐ。
「自動送信が走る。同じ時刻に、広場の大型スクリーンへ会計表を出す。最初は五列。PRICE FOUNDATION、MARTON SUPPORT、CONWAY REFINANCE、RAUK OFF-BOOK、MALONE TRANSPORT」
ジョアンが毛布の中で目を閉じたまま、唇だけを動かす。
「三万二千ドル。同日同額」
「次に死亡診断書」
グラディスが震える手で赤い紙束を押さえる。
「午前二時四分の七行。トミーの入院日。ミゲルの母の空白欄」
ミゲルは顔を上げない。アルマがその肩へ手を置く。ドギョムはそこで止まらない。止まれば、誰かが泣く時間になる。
「二十三時十分。フィントンがシャトルから降りる。旧車両登録事務所脇の路地で押さえる」
彼はフィントン宅の略図を引き寄せる。湖畔の平屋から郡道、カジノシャトルの停車点、路地の曲がり角まで、黒い線が一本で結ばれている。
「鞄が先だ。本人はあとでいい。声を出させるなら、手を使えなくしてからだ」
ヘナが低く言う。
「殺さないんですね」
「話させる」
短い返事で、地下室の空気がまた締まる。
ドギョムは次に砂漠滑走路の座標を指す。郡地図の外へ伸びた線は、ブラスヒルの紙の端を越え、国境方面の乾いた空白に刺さっている。
「二十三時二十分。ミゲルのドローンがマローンのトラックを追う」
ミゲルは赤い機体の航路を押さえる。
「一機目はリハビリセンター裏庭からD-3換気塔。二機目は山道出口から八十一号線南側分岐。その先、滑走路まで行けるところまで」
「戻すな」
「戻らなくても、映ればいい」
少年の声は震えていない。震えないように固めすぎているだけだ。アルマは何か言いかけて、飲み込む。
ドギョムは最後に古い鉄道駅の図を引く。錆びた貨車二両、半壊した貨物ホーム、信号所、北へ抜ける排水溝、南側の枕木の切れ目。彼が置いた血のついた圧迫包帯と寝袋の印もある。
「同じ二十三時二十分。俺は鉄道駅へ入る」
ヘナの視線が上がる。
「ラウクをそこへ?」
「来るなら、そこで止める」
「来なかったら」
「広場か教会で止める相手が増える」
ドギョムの答えは硬い。どちらでも損をする。その損を小さくするために、五つを同時に動かすしかない。
ジョアンが掠れた声で言う。
「ラウクは……半分、読んでる」
「こっちも半分読んだ」
ドギョムは壇の端に置いた無線受信機へ目を移す。通常網は静かだ。静かすぎる。鉄道駅の命令だけをきれいに聞かせた時と同じ匂いがある。
同じ夕方、保安官事務所の会議室では、カール・ラウクが別の地図の上に赤いピンを五本刺している。
若い代理はドギョムが見たことのある緊張した顔で、机の端に立つ。ラウクは広場外郭、教会近くの食料品店裏、カジノシャトル停留所脇、古い鉄道駅、旧車両登録事務所脇の路地へ順にピンを落とす。
そのうち二本は、ドギョムがわざと漏らした場所だった。鉄道駅とカジノシャトル停留所だ。残り三本は、漏らしていない場所だ。
若い代理が喉を鳴らす。
「どうして、ここまで」
ラウクは紙束を指で叩く。缶詰の売上。圧迫包帯。電池。焼けたダイナーの救急用品。教会側の店の短縮信号。カジノシャトルの夜間停車表。旧車両登録事務所の監視強化後に薄くなった足跡。
「人は嘘をつく。物は遅れて本当のことを言う」
彼は教会へ刺したピンだけを少し深く押す。
「よそ者は自分を餌にする。だが、餌を置く男にも守る荷物がある」
「鉄道駅へ兵を増やしますか」
ラウクは少しだけ笑う。笑みに熱はない。
「増やせば、罠だと言っているようなものだ」
会議室の窓の外で、雨がガラスを白く曇らせる。壁際のラジオから地元局の声が混じる。
州知事の車列が郡境に入った。到着予定は二十二時四十分。郡コンベンションホール広場で、プライス町長が歓迎演説を行う。
その短いニュースで、若い代理たちの背筋が伸びる。ラウクは伸びない。彼はただ、五本の赤いピンを見下ろす。
「派手にやる連中は、派手な場所を見せたがる。だが本当に壊れるのは、端だ。端から閉じろ」
教会地下でも、同じニュースが換気口越しの小さなラジオから流れる。州知事の車列が郡境に入った。その一文が、湿ったコンクリートへ落ちる。
ディナが目を伏せる。グラディスは端末を抱きしめる。ミゲルは機体のケースを閉じる。ヘナは階段の上を見て、戻ってこられる人数を数えるように目を細める。
ドギョムはシャツの内側へ指を入れる。胸元の奥に押し込んだ認識票が、冷たく指に触れる。ソ・ドギョムという名前と軍番号。紙の上で意味を変えられ、まだ捨てていない金属。
彼は一度だけそれに触れ、さらに奥へ押し込む。
『今日は、名前を残す日じゃない』
声にしない。声にすれば、誰かが聞く。
ダッフルバッグの口を開ける。中に入れるものは少ない。ルーファスの廃トラックのキー。清掃業者のカード。黒い変換器。布テープ。カッター。予備のガーゼ。拳銃は入れない。
彼は三つだけ、口の前に一列に並べる。キー、カード、変換器。
ヘナが見る。
「それだけですか」
「足りる」
「足りなかったら」
「足りない場所へは行かない」
嘘ではない。ただ、行かない場所などもう残っていない。
時計の針は十八時を少し過ぎている。決行まで五時間余り。五時間で、人は逃げられる。五時間で、町は証拠を燃やせる。五時間で、ラウクは地図の上の赤いピンを、実際の人間の喉へ変える。
受信機が低く割れた。
最初はノイズだけだった。雨が金属板を叩くようなざらつきの奥から、保安官事務所の通常網ではない太い声が浮かび上がる。
ラウクだ。
「鉄道駅には俺が行く」
地下室の全員の動きが止まる。
声は続く。低く、紙へ残す気のない命令だった。
「教会と広場は同時に叩け」
法が遅すぎる町で、今日倒すべき悪党を倒す男
91話 決戦前夜、それぞれの配置
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