蓋の内側で回るリールから、息だけがこぼれ続けていた。
ミンジェはライトを下げたまま、録音機の入力を切った。父の声に似るかどうかを確かめる一秒が、向こうの条件に入ってしまう。そう判断した瞬間、耳ではなく手のひらに力を入れた。
「それを床に置いてください」
ドヒョンは笑わなかった。黒い影を落とした目で、ミンジェの顔ではなく喉元を見ていた。
「まだ報告書だけなら間に合います。古い配電盤の異常、共用部の共振。そう書いて建物を出てください。あなたが出れば、被害はここで抑えられる」
「『抑えられる』ではなく、『隠せる』の間違いでしょう」
「言葉遊びをしている場合ではありません」
ドヒョンの声が荒くなった。丁寧さの皮が一枚剥がれ、長く眠れなかった人間の焦りが出た。
「入居者はこれ以上持ちません。あなたもです。父親の名が入ったリールを前に、どこまで鑑定士でいられると思いますか」
ミンジェは自分の喉が動きかけるのを押さえた。パク・ソンファン、と口にしたい衝動が、奥歯の裏で鈍く疼いた。だが言わなかった。
「市役所の図面撮影データは、すでに外部へ預けてあります。契約目録の写しも同じです。私がここで報告書を偽造しても、明日の朝には別の場所から出ます」
ドヒョンの指が、金属箱の蓋を強く握った。錆が落ち、床へ赤茶色の粉が散った。
「誰に」
初めて、彼の表情が崩れた。怒りではない。計算していた壁の一枚が、内側から抜けた顔だった。
「それを聞いて、あなたが先に止めに行ける相手ではありません」
短い沈黙が落ちた。
配電盤は低く唸っている。だが、その奥に別の回転が混じっていた。壁ではなく、建物の背骨の中を何かがゆっくり巻き戻っている。
ドヒョンは目を伏せ、息を吐いた。
「あなたは、まだ勘違いしている」
彼は蓋を配電盤の下へ置いた。父のリールも、蓋の内側から指で弾くように外し、封印テープの横へ転がした。ミンジェは動かなかった。拾えば、彼の作った間合いに入る。
「三階は、なくなったんじゃありません」
ドヒョンは入口へ背を向けた。
「待っているんです」
その言葉だけを残し、彼は地下の階段へ消えた。足音は数段で途切れた。階段を上がったのか、存在しない踊り場へ横へ逸れたのか、ミンジェには聞き分けられなかった。
五分待ってから、ミンジェはリールを拾った。手袋を二重にし、リールの穴へ指を入れず、外縁だけをつまむ。ラベルにはやはり父の名があった。濡れてもいないのに、インクの輪郭だけが新しく滲んでいる。
彼は再生機へは近づけなかった。代わりに簡易磁力計、非接触ヘッド、遮蔽ケースを並べる。音ではなく磁性値を見る。波形未満の乱れだけを拾うなら、直接聞くという条件には入らない。そう信じるしかなかった。
夜になるまでに、ミンジェは建物の各階へ機材を戻した。一階薬局の冷蔵庫裏に低周波マイク、二階教室の黒板下に接触センサー、四階祈祷院の入口前に振動計、五階廊下の手すりに小型レコーダー。地下電気室には、父のリールを入れた遮蔽ケースと監視端末を置いた。すべては音を再生するためではなく、建物が勝手に鳴らす瞬間を切り分けるためだった。
セヨンは薬局の奥で、息子に関する事実を書いた紙を胸に抱いていた。名前の欄だけは空白のままだ。ジョンフンは塾の電灯を消し、生徒の机を一つずつ壁際へ寄せた。ギジュンは祈祷院の扉に鍵をかけ、看板を見ないように背を向けた。誰も、もう平静ではなかった。それでも全員が、ミンジェの「今夜だけ返事をしないでください」という短い指示にうなずいた。
二十三時五十七分、3F-共用の電力波形が上がった。
波形はいつもの鋭い山ではなく、低く長い坂だった。ミンジェは地下の床へ座り、端末の画面を膝に置いた。父のリールは遮蔽ケースの中で止まっている。再生軸には触れていない。だが磁力計の針だけが、誰かの呼吸に合わせるように、わずかに左右へ揺れた。
「音声出力なし。機械的回転なし。外部磁場、微弱変動」
記録のために呟き、彼はすぐに口を閉じた。自分の声も、ここでは材料になる。
端末に波形が出た。
それは普通の録音済み磁気パターンではなかった。未再生のテープ表面から、細い山が何本も浮いている。名前を呼ぶ時の母音に似た膨らみ。息を吸い、子音を作り、最後の一音節で止められる形。耳では聞こえないはずなのに、ミンジェの皮膚はそれを声だと知った。
最初の山は、セヨンの息子の名に似ていた。二つ目はジョンフンの教え子の姓。三つ目は、ボンレの名に近い。四つ目で、ミンジェは指先を止めた。
パク。
画面の文字ではない。波形の傾きが、そう読めた。続くはずの音節は、刃物で削られたように平らだった。父のリールは、父の声をしまっているのではない。建物中の名を、呼ぶ直前の形で抱え込んでいる。
午前零時三十九分三十秒。
一階の入力に、ミシンの針が入った。続いて二階、四階、五階。順番ではない。同じ時刻に、同じ強さで、別々の部屋の空気が縫われ始めた。
ミンジェは音量をゼロにしたまま波形だけを見た。だが耳を塞いでも意味がなかった。床下からタタタという震えが靴底へ上がり、骨に直接刻まれる。薬局側の回線で棚のガラスが鳴り、塾側ではチョーク受けが細かく跳ねた。祈祷院の入力だけ、最初の一拍ごとに低い息が混じった。
午前零時四十分。
硬貨が鳴った。
一枚、二枚、三枚と数える余地はなかった。七枚一組の規則も崩れ、数十枚の硬貨が同時に床へ散ったような音圧が、建物全体を叩いた。地下の蛍光灯が白く瞬き、配電盤の表示灯が一斉に赤へ変わる。
次に、巻き戻し音が来た。
本来なら最後に来る音だった。だが今夜はミシンの拍子の中へ食い込み、硬貨の残響を後ろから引き剥がし、すべてを逆向きに巻いていく。端末の時刻表示が一瞬だけ乱れ、三十九分五十九秒へ戻り、また四十分へ跳ねた。
『順番を捨てた……』
ミンジェは端末を押さえた。壁が鳴っていた。配管ではない。コンクリートの内側に、薄い廊下が長く伸び、その両側の扉が少しずつ開いていくような音だった。
遮蔽ケースの中で、父のリールが半回転した。
再生機はない。電源もない。なのにテープの表面から、さっきまで数値でしかなかった波形が、空気へ滲み出した。ミンジェは耳を塞がなかった。直接聞いてはいけないと分かっている。それでも今塞げば、建物が誰を呼ぶのか見失う。
電気室の奥、滑らかに戻ったはずの壁の向こうで、古いスピーカーが水を含んだように濁った。
男の声が流れた。
低く、優しくはなかった。父の声でも、ドヒョンの声でもない。もっと古く、契約書の紙に染みた湿気のような声だった。
「最初の契約を回収します」
端末の目録データが勝手に開いた。ユン・ボンレの行より古い番号の空白欄が、黒く反転した。そこに、見覚えのある食堂店主の名が滲んでいく。
チェ・マンシク。商売初日のレジの音。
同時に、滑らかな壁が泥のように波打ち、呑み込んでいた錆びた金属箱を音もなく床へ吐き出した。その瞬間、一階の外、まだ閉まっているはずの路地食堂のレジスターが、誰にも触れられずに高く開く音を立てた。
誰も上がれない三階から、午前零時四十分に僕の名を呼ぶ声がする
21話 制御不能のレジスター音
次の話