閔光(ミン・グァン)の笑みが、大殿の冷えた空気にゆっくり広がった。
「見よ。原本は焼け、残ったのは李俊瑞(イ・ジュンソ)の確認という文字だけだ。これでもなお、下級武人の紙切れを信じよと言うのか」
杖の石突きが床を打つ。今度は誰もすぐに言い返さなかった。小平(ソピョン)は膝をついたまま唇を噛み、郭進(クァク・ジン)は拳を握りしめ、世琳(セリン)は焦げた紙片から目を離さない。白道允(ペク・ドユン)の青絹の令牌が燭火を受けて揺れ、内堂側の弟子たちは、もう勝負はついたという顔をした。
俊瑞だけが、紙片の端を見ていた。焦げた縁の下に残る繊維が粗い。倉庫原本は小平が湿気を嫌って厚手の紙に替えたばかりで、墨の線の幅も違う。だが、それを声だけで示しても、閔光は笑って踏み潰すだろう。
「門主」
俊瑞は焦げた紙片に触れず、膝をついたまま顔を上げた。
「原本が燃えたかどうかは、後で紙質を見れば分かります。ですが、今ここで必要なのは原本一冊ではありません」
閔光の眉が動いた。
「負け惜しみを」
「倉庫手順を改めた日から、薬材の記録は一枚にまとめていません。小平の支給表、郭進の負傷表、南宮世琳(ナムグン・セリン)の偵察表。三つを別々の場所に置きました」
ざわめきが戻った。小平がはっと顔を上げた。自分が震えている理由を忘れたように、袖の中を探る。
「お、俺のは……倉庫じゃない。薪置き場の下、油紙の筒に入れてある」
「持ってきてください。郭進、あなたの表は」
「医薬堂の布棚の裏です。処置者の名と、俺が見た負傷者の数を書いてあります」
郭進の声は細かったが、最後まで折れなかった。
「世琳」
「偵察表は、練武場の壊れた規定板の裏。陳武(チン・ム)が医薬堂裏口を出た時刻、西門客桟(せいもんきゃくさん)に入った時刻、馬車の数」
世琳は短く答えた。縄の跡が赤い手首で、胸元の紙片を押さえる。
韓白林(ハン・ベクリム)が片手を上げた。
「三人、取りに行け。内堂弟子を一人ずつ伴わせる。途中で紙に手を加えた者は、身分を問わず処罰する」
白道允の視線が鋭くなる。青絹の令牌を持つ手が、わずかに締まった。だが門主の命令の前では、それ以上進めない。小平、郭進、世琳がそれぞれ立ち上がり、内堂弟子を伴って大殿を出た。
待つ間、閔光は黙っていなかった。
「門主。外堂の者だけが都合よく別紙を用意していたという。これを信じれば、門派の規定はもう終わりです。誰もが自分の紙を隠し、長老会に差し出す日が来る」
「隠したのではありません」
俊瑞は答えた。
「一か所が壊れた時に、全部が失われないよう分けました。倉庫が数量を、負傷表が必要量を、偵察表が外へ出た動きを見る。三つが合わなければ、どれかが間違いです」
「詭弁だ。紙を三つに増やせば、嘘も三つに増えるだけだ」
閔光の声は冷たかった。しかし杖を持つ指に、ほんのわずかな力が入りすぎているのを俊瑞は見た。攻める声は強い。だが、三つの表が出てくることは計算に入れていなかった。
先に戻ったのは郭進だった。布棚の裏から抜いた紙束を両手で抱えている。続いて世琳が壊れた規定板の裏に貼っていた薄い紙を持ち、小平が油紙の筒を抱えて走り込んだ。小平の額には汗が滲んでいたが、手は紙を離さなかった。
三つの表が卓上に並べられた。
俊瑞は筆を取らず、指だけで日付を示した。
「三日前。小平の支給表では活血丹(かっけつたん)四瓶。郭進の負傷表では、同日の負傷者は二人。どちらも軽い打撲で、活血丹の処置は不要。実際の医薬堂での処置表にも同じように書かれているはずです」
「偵察表」
世琳が続けた。
「申の初め、陳武が医薬堂裏口から出た。薬箱一つ。酉の刻の前、西門客桟裏庭に入る。外に馬車一台」
「翌日」
俊瑞の指が次の行へ動く。
「小平の支給表では活血丹三瓶、霊薬一瓶。郭進の負傷表では膝打撲一名、肩の腫れ一名。霊薬を使う処置はない」
郭進は自分の表を見下ろし、息を呑んだ。
「ここ……俺の名前があります。左腕の再処置、活血丹一瓶。でも俺、その日は医薬堂に行ってません。布替えだけで、薬は受けてない」
その声で、外堂の列が揺れた。負傷者本人が、受けていない処置を否定した。閔光の顔から笑みが薄くなる。
小平は両手を膝に置き、震えを押さえようとしていた。だが押さえきれず、紙の端が小刻みに鳴った。
「俺、見ました」
声は裏返っていた。
「夜に陳武が来て、空の薬瓶を持ってきた。棚の奥にあった瓶とすり替えて、満ちた瓶だけを布袋へ入れた。俺、最初は残数を間違えたと思って……でも、次の朝、空瓶の栓に薬の匂いがしなかった。使った瓶じゃない。外から持ってきた空瓶だった」
「なぜすぐ言わぬ!」
閔光が怒鳴った。
小平の身体が跳ねた。だが、彼は逃げなかった。
「怖かったからです! 長老の弟子に逆らったら、俺が盗んだことにされると思った。でも、表に書いた。残数が合わないって、空欄にしないで書いた!」
大殿の沈黙が変わった。先ほどまで俊瑞を責めていた視線の一部が、卓上の三つの表へ落ちる。数字は派手な叫びを上げない。ただ、日付と数量を並べていた。
俊瑞は最後の行を示した。
「合計すると、活血丹は負傷者数より継続して多く持ち出されています。軽傷の日に重薬が出て、処置のない者の名で瓶が消え、同じ時刻に西門客桟へ薬箱が入っています」
「黙れ」
閔光の声は低くなった。
「下級弟子が震えながら吐いた言葉で、長老を倒せると思うか」
その瞬間、彼の足元から重い圧が広がった。内功だった。燭火がかすかに傾き、外堂の末端弟子たちの肩が床へ押しつけられるように沈む。小平の顔から血の気が引き、郭進が歯を食いしばった。世琳の手が剣の柄へ伸びかける。
韓白林の目が細くなったが、まだ動かない。ここで門主が力で押さえれば、数字で詰めた意味が消える。俊瑞はその判断を読んだ。だから息を吸い、圧の中で名を呼んだ。
「入ってください」
大殿の外で、控えめな足音が一つ止まった。
閔光の内功がさらに重くなる。だが、扉の陰から現れた男は、逃げなかった。粗末な下人服を着た痩せた中年で、顔には古い打ち傷があり、両手を腹の前で固く握っている。
世琳が目を細めた。
「西門客桟の裏庭にいた下人」
男は深く頭を下げた。韓白林が視線だけで発言を許すと、彼は喉を震わせながら一歩前へ出た。
「馬老人(マろうじん)の使いでございました」
その一言で、閔光の杖が初めて床を外した。
下人は袖の中から、小さな空き瓶を取り出した。栓には、世琳が持ち帰ったものと同じ印が残っていた。大殿の全員の視線が、その瓶へ吸い寄せられる。
そして下人は、俊瑞ではなく閔光を見た。恐怖で唇を震わせながらも、はっきりと言った。
「陳武様から受け取った薬瓶を、わたくしが馬老人へ運びました。銀子を渡した相手の名も、覚えております」
剣気より業務マニュアル 下級武人になった大企業代理、帳簿一冊で長老を裁く
19話 数字だけが嘘をつかない
次の話