「入口を映せ。今すぐだ」
マローンの声が無線機を震わせた瞬間、ドギョムは安全帽を少しだけ深く傾ける。つばが頬骨の線を切り、黒い半球へ向く顔の上半分を闇に沈める。カメラの軸が最後の角度をなぞる。裸電球の反射が透明カバーを走り、入口の影を掠めた。
発電機横の男が一歩出る。
「三三、返事しろ」
ドギョムは返さない。返せば、声の位置が固定される。彼は腰の無線機を親指で押さえたまま、カメラが完全にこちらへ向く前に、鉱車の積み箱の影へ半身を滑らせる。安全帽の黄色い縁だけが一瞬映ったはずだ。顔ではない。番号のない夜勤組の一人としてなら、まだ使える。
無線がまた鳴る。旧排気へ動かした三一と三二が戻り始めている足音も、遠くで混じる。
ドギョムは送信ボタンを押す。
「三三。分岐A-2、よそ者の影。ライトなし。確認へ回る」
声は短く、息を混ぜない。発電機横の男が止まる。作業場の別の男が顔を上げ、誰かが低く悪態をつく。マローンの返答はすぐ来ない。代わりに夜勤組の班長らしい太い声が割り込む。
「A-2? 点呼時間じゃない。三三、位置を言い直せ」
疑いは正しい。だが正しさだけでは命令にならない。ドギョムは間を半拍だけ空ける。
「峡谷の山道出口。新しい足跡あり。鉱車側から外へ二つ」
無線の向こうで、音がざらつく。班長が息を吸う気配がした。
「今は点呼だ。誰が山道を見ろと言った」
その問いに、別の低い声が重なる。マローンだ。
「見ろ。よそ者が外へ抜ける道を探すなら、そこだ」
班長は一拍黙る。逆らえば、作業場を守ったことにはならない。マローンの指示に背く形だけが残る。
「三一、山道出口。三二、A-2へ回れ。二七は本館裏口を見ろ」
ドギョムはさらに送る。
「本館裏口のシャッター、二度上がった。内側か外側か不明」
今度は班長の舌打ちが聞こえる。だが命令はもう流れた。レールの奥、三つの足音が別々の方向へ散る。旧排気から戻る足音も途中で曲がる。作業場に残った見張りは、発電機横の男、鉱車脇の男、薬品箱の山の間でラベル束を抱える男の三人だけになる。
ドギョムは無線機を切らず腰へ戻す。カメラの黒い目はまだ入口付近を探っているが、発電機横の男はすでに別の不安へ向いている。情報が多すぎる時、人間は目の前の影を一度小さく見積もる。
その一度で足りる。
ドギョムは鉱車の影から発電機の裏へ動く。鋼材の振動が足音を飲み、薬品箱の山が体を隠す。配電盤の横に、古い遮断器と新しく付け足された小さな回路箱がある。赤いテープで非常灯と書かれている。主電源の大きなレバーには触れない。作業場全部が落ちれば、叫びと銃が同時に出る。
彼は小さな回路箱の蓋を指先で開く。中のブレーカーは三つ。非常灯、補助ファン、監視カメラ補助。手順を間違えれば音が変わる。彼は非常灯だけを下げる。
ぱん、と乾いた音が坑道の腹に跳ねた。
蛍光灯の半分が消える。裸電球は残るが、奥の鉄網と鉱車レールの間に太い影が落ちる。非常灯の赤い帯が壁から消え、レールの内側の油だけが黒く光った。ミゲルの手が一瞬止まる。アルマの肩も止まる。だが誰も声を出さない。
「何だ」
鉱車脇の男が警報ボタンを見る。発電機横の男は配電盤へ向く。二人の視線が割れた。
ドギョムは先に鉱車脇へ入る。男が箱の陰から覗こうと膝を曲げた瞬間、ドギョムの靴先が車輪止めを蹴る。小さな鉄片が転がり、男の注意が下へ落ちる。その脇へ体を入れ、膝の外側を掌底で押し、逆へ折る。
鈍い音がする。男の口が開く前に、ドギョムは顎を肩へ押し込み、声を喉の奥で潰す。拳銃は抜かせない。無線機も床へ落とさせない。男は車輪の横で膝から崩れ、ドギョムはその手首を背中で束ね、鉱車の連結鎖に結束バンドで縛る。
「寝ていろ」
声は誰にも届かない。
二人目は薬品箱の山の間にいる。ラベル束を抱えたまま、消えた灯りの方向へ首を伸ばしている。ドギョムは箱の背後を回り、粉末袋の臭いを避けて息を浅くする。男が無線を口元へ上げた瞬間、背後から手のひらを口に押し当てる。もう片方の腕で肘を畳み、肩を壁へ固定する。
男は暴れる。積まれた白い容器が一つ揺れ、落ちかける。ドギョムは足で容器を押さえ、男の膝裏を蹴って沈める。布を口に噛ませ、箱の梱包バンドで両手を縛り、薬品箱の隙間へ横向きに押し込む。呼吸はできる。声は出ない。
残る一人が気づいた。
発電機横の男は配電盤の前で固まり、消えた灯りと倒れた鉱車脇を交互に見る。視線がドギョムの影を掴むより早く、彼は赤い警報ボタンへ走る。カバーを跳ね上げる手が伸びる。
ドギョムは間に合う距離ではない。
なら、手を壊す。
彼は腰の無線機を投げる。黒い機械が警報カバーへ当たり、男の手元が一拍だけずれる。ドギョムはその一拍にレールを越え、男の手首をつかむ。親指側へひねらず、小指側へ落とす。骨と腱が同時に悲鳴を上げ、男の膝が折れる。
「押すな」
短い命令に、男の顔から血の気が引く。ドギョムは手首をさらに半回転させ、腰の無線機を奪う。警報ボタンの赤いカバーは開いたまま揺れているが、指は届かない。男の口を塞ぎ、配電盤下の太いケーブルに縛りつける。
無線機が床で鳴る。
「二七、本館裏口、異常なし。三一、山道出口、足跡確認できず」
班長の声がすぐ続く。
「三三、今の遮断音は何だ。作業場、応答しろ」
ドギョムは三つ目の無線機を手に取り、送信ボタンへ指をかける。だが、押さない。もう偽報告で外へ流す段階ではない。作業場の中の線を止める段階だ。
彼は発電機脇の小さな端子盤から、ライン制御の細いケーブルを一本抜く。ベルトコンベヤー代わりのローラー台が止まり、鉱車へ箱を押す音が途切れる。熱圧着機のランプも暗くなり、作業場を満たしていた単調な機械音の一部が欠けた。
静けさが、鉄網まで届く。
ミゲルが顔を上げそうになる。ドギョムは指を唇へ当てる代わりに、安全帽のつばを少しだけ上げる。少年の目が闇の中で見開かれる。声は出ない。震えだけが肩に走る。
隣の鉄網で、アルマが先に気づいた。闇の中に立つ安全帽。肩の動かない背の高い影。彼女はラベルを持ったまま、息を止める。二か月の恐怖で固まった目が、一瞬だけ別の光を持つ。
ドギョムはまだ錠前へ行かない。班長が戻るまでの時間、監視室が異常を読むまでの時間、マローンが怒鳴るまでの時間。その全部が同じ細い線の上にある。彼は倒した三人の鍵束を探り、古い南京錠に合いそうな鍵を見つける。
その時、天井の黒い半球が完全に沈黙した。非常灯の回路を落とした影響で、カメラの首振りも止まっている。入口を映せという命令は、そこで途切れたように見えた。
だがドギョムは、動きを止めた半球の下に別の光を見た。
赤い補助灯がひとつ、粉塵よけカバーの奥でまだ点滅している。消えた監視カメラの下で、それだけが小さく生きていた。点滅の間隔は三秒。リハビリセンターの保安ブレスレットと同じ、節電発信の呼吸だった。
法が遅すぎる町で、今日倒すべき悪党を倒す男
74話 ミゲルの折れた二本指
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