扉が閉まってから、倉庫の朝は不自然に静かになった。
ジェユンは磨りガラスの向こうの影を見つめていた。机の前に立つ倉庫長の太い背中が見え、ソンロクは椅子に座らされている。声は漏れない。ただ、倉庫長が指で机を叩くたび、ガラスの向こうの父の肩がわずかに沈んだ。
ミョンスが小声で言った。
「怒鳴らない時のほうが、あの人は面倒なんだ」
スネも食堂の扉から離れなかった。湯気の立つ鍋を放っておけないはずなのに、前掛けの端を握ったまま事務室を見ている。
やがて扉が開いた。先に出てきたのは倉庫長だった。彼はジェユンのノートを一瞥し、吐き捨てるように言った。
「子どもを倉庫の中で遊ばせるな」
ソンロクは後から出てきた。唇が固く結ばれていた。目を合わせれば何を聞かれるか分かっているように、彼はジェユンの肩に手を置き、倉庫の外へ歩かせた。
「父さん」
「学校へ行け」
声は低かった。怒りではない。耐えている声だった。
「何を言われたんですか」
ソンロクは答えなかった。倉庫の門まで来て、ようやく短く言った。
「現場の仕事に、息子を入れるなと」
それだけで十分だった。昨日の夜、病院と大田と釜山をつないだこと。部品が門を通り、白紙確認書の責任がずれたこと。倉庫長にとってそれは助けではなく、管理の外にある手だった。
ジェユンはうなずいた。
「分かりました」
ソンロクが一瞬だけ目を細めた。何が分かったのか聞きたそうだったが、勤務開始のベルが鳴り、彼は背を向けた。
翌朝、ジェユンは登校前に弁当箱を食堂へ届けに寄った。スネが腰の悪い納品業者の名前を書いた紙をこっそり差し出し、ミョンスは薬局の領収書を折ってポケットから出した。
「今日じゃなくていい。ほんとに、ついでで」
そう言う顔ほど、ついでではなかった。
事務室の前を通り過ぎようとした時、倉庫長が内側から顔を出した。
「パク・ジェユン」
呼ばれた瞬間、スネが息を呑んだ。ミョンスも領収書を隠した。
倉庫長は周囲を見回し、誰にも聞こえない声で言った。
「天安工場長の家族が、腰の診察を受けたいらしい。大きい病院は予約が取れん。昨日の病院の番号、知ってるだろ」
昨日は父を座らせて警告した口が、今日は頼み事をしていた。倉庫長の顔には恥も謝罪もない。ただ、困っている者を知っていて、それでも自分では頭を下げたくない人間の硬さだけがあった。
「僕は子どもです」
ジェユンが静かに返すと、倉庫長の頬がぴくりと動いた。
「口答えするな。確認だけだ。名前は出すな」
出すな、という言葉がすべてだった。倉庫長は自分の立場を守りたい。工場長の顔も立てたい。病院にはつなぎたい。だが、その手間を公式に残したくない。
正義の言葉で押せば、ここでは扉が閉まる。必要なのは、切れないつながりだった。
「診療科と希望日を書いてください。保険証の名前も」
ジェユンが言うと、倉庫長は少しだけ目を泳がせ、机の中から折った紙を出した。紙には天安工場長の妻の名前、腰椎、紹介状なし、できれば今週、と乱れた字で書かれていた。
その日から、ジェユンの放課後は倉庫の外周を一周することになった。小学校の門を出ると、まず薬局へ行き、ミョンスの領収書が労災ではなく個人購入扱いにされていることを確認した。薬剤師には湿布の品名と日付をもう一枚書いてもらい、領収印を押させた。
次にバス停近くの公衆電話から天安の総合病院へかけた。腰の痛み、立ち仕事、紹介状なし、初診受付の曜日。受付の女性は最初、保護者を出せと言ったが、ジェユンが工場名を出さずに患者本人の症状だけを淡々と伝えると、木曜午前の整形外科なら受付可能だと答えた。
夕方には食堂裏でスネに紙を渡し、納品業者の車に同じ内容を書いた封筒を預けた。帰り際、スネは鍋の蓋を持ったまま、低く言った。
「頼まれたこと、誰に言えばいいのか分からなかったのよ」
「言わなくていいです。次から、紙にしてください」
ジェユンは返し、名前と用件と期限だけを書く小さな欄をノートの後ろに作った。
一週間もたたないうちに、欄は埋まり始めた。運転手の妻が子どもの予防接種の時間を聞きに来た。下請け工場の作業員が、事故で割れた眼鏡の修理領収書をどこへ出せばいいか尋ねた。警備員の母親が、薬を取りに行けない息子へ代わりに届けてほしいと頼んだ。
ジェユンは何でも受けたわけではなかった。金を預かる時は必ず二人の前で数えた。書類は封筒の口を閉じ、表に日付だけを書いた。病院予約は本人の名前で取り、会社名を先に出さない。誰か一人の好意に見えないよう、渡す相手を変えた。
前世の秘書室で覚えたことが、今は違う形で役に立った。偉い人間の機嫌を読むための経験ではなく、疲れた人間が何を言い出せずにいるかを拾うための技術になった。
ソンロクは最初、何度も止めようとした。
「ジェユン、これはお前の仕事じゃない」
「仕事じゃありません」
「だったら何だ」
ジェユンは少し考えた。
「あとで、誰も知らなかったと言わせないための用事です」
ソンロクは眉を寄せたが、それ以上は言わなかった。翌日から、彼は自分の運行補助簿の端に、休憩で寄る薬局や工場の名前を小さく書いて置くようになった。止めないというより、危ない道を少しでも見える場所に寄せようとしていた。
倉庫長も変わったわけではない。人前では相変わらず怒鳴った。確認書も、空白の日誌も、消えたわけではない。ただ、彼が低い声で「この番号、まだ通じるか」と紙を出す回数は増えた。
そのたびにジェユンは、相手の顔を覚えた。天安工場長の妻。納品業者の腰。ミョンスの指。スネの前渡し金。キム・ドンパルの戻り便。ムン・ギョンシクの夜間署名。ばらばらだった名前が、倉庫の壁に貼られた配送表より細かい線でつながっていく。
そして、その線は倉庫の門の外からも戻ってきた。
夕方、ジェユンが食堂裏の台で封筒を分けていると、門の前に古いタクシーが止まった。ソウルのナンバーだった。運転席から降りた男を見た瞬間、ソンロクの顔色が変わった。
「オ班長……」
オ・マンシクは以前より少し痩せていた。けれど、笑う時の口元だけは変わらない。彼は倉庫長へ挨拶もせず、まっすぐジェユンの前に来た。
「パク・ソンロクの息子。いや、もうそう呼ぶだけじゃ足りないな」
彼は上着の内側から、古い黒革の手帳を出した。角は擦り切れ、ページの端には油染みがあった。開かれた紙面には、見慣れない番号がびっしり並んでいた。ソウル本館の運転手、地方の下請け、退職した整備工、夜だけ出るレッカー、病院の夜間受付。
ジェユンの指が止まった。
マンシクは低く言った。
「俺が持っていれば、ただの昔の連絡先だ。お前が持てば、道になる」
次のページの隅に、赤い線で囲まれた一つの名前があった。カン・デシク。横には、会長別荘専任、とだけ書かれていた。
財閥家の末息子ではなく、財閥家の運転手の息子に転生した
25話 連絡網に伸びる本社の手
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