「こっちの子も同じです!」
教師の声に、保健室の空気がさらに硬くなった。テオは女の子の腕を確認し、赤い線の位置だけを紙に書き込んだ。発疹そのものに手を取られている時間はない。今、先に倒れるのは脱水の強い子だ。
「名前。体温。最後に尿が出た時間。吐いた回数」
若い担任は震える手で鉛筆を握った。
「せ、先生、全員を病院へ――」
「船は出ません。ここで分けます」
テオは短く切った。泣き声が廊下から押し寄せ、床のマットの端で男の子がまた吐いた。ソジンがすぐバケツを差し出し、背中を支える。テオはその子の口元を拭かせ、唇の乾きと目の落ち込みを見た。
「この子は点滴。こっちへ。呼びかけに返事が遅い子も前へ」
保健室のベッド二つはすでに埋まっていた。テオは机を壁へ寄せ、床に置いたマットを二列に分けた。右側は意識がはっきりして水分を少し取れる子。左側はぐったりしている子、熱が高い子、吐き続ける子。色分けのテープなどない。紙に番号を書き、子どもの袖に安全ピンで留めた。
「痛い、やだ……」
「刺します。すぐ終わります」
テオは最も脱水の強い男児の手背に針を入れた。血管は細く、皮膚は冷たい。針先が入った瞬間、母親らしい女が入口から叫んだ。
「うちの子に何してるの!」
廊下で机が軋んだ。グムレの低い声がそれを遮った。
「入るなと言った。先生の手元を乱すな」
「でも、うちの――」
「倒れている子は、あんたの子だけじゃない」
その一言で、泣き声は消えなかったが押し寄せる力は弱まった。テオは輸液の滴下を確認し、次の子へ移った。
給食室から面事務所のキム係長が駆け込んできたのは、三本目の点滴をつないだ時だった。額に汗を浮かべ、片手に給食献立表を握っている。
「先生、給食です。ちりめんじゃこの炒め物が怪しいです。業者にすぐ連絡します。納品分を全部止めて、食中毒として――」
「待ってください」
テオは体温計を受け取りながら言った。
「待てません。子どもたちがこんなに吐いているんですよ。海産物が傷んだんでしょう。今日のメニューで一番危ないのはそれです」
キム係長の声には、結論へ飛びつきたい焦りがあった。原因を一つに決めれば、電話をかけ、書類を書き、行政の形に収められる。だが保健室の床には、その形からはみ出す子どもたちが横たわっていた。
「給食を食べていない人は」
テオが担任へ聞くと、若い担任は紙束をめくった。
「え?」
「食べていないのに症状がある人です」
担任は唇を噛み、別の職員を見た。そばの壁際でうずくまっていた女性職員が、青い顔で片手を腹に当てていた。
「私……今日は胃が重くて、給食は食べてません。水だけです。職員室の浄水器の」
キム係長が動きを止めた。
廊下の椅子に座らされていた中年の男性職員も、小さく手を上げた。
「行政室の者です。弁当を持ってきたので給食は取っていません。でも昼前から腹が痛くて……水は飲みました。子どもたちに配る前、給食室で」
さらに若い担任が、顔色を失いながら言った。
「私も、給食はほとんど食べてません。味見もしていないです。授業のあと、浄水器の水を二杯飲んで……それから腹が」
保健室のうめき声が、急に別の意味を帯びた。
テオは紙に線を引いた。給食を食べた者。食べていない者。浄水器の水。給食室の水。行政室。職員室。児童用の水筒。点は食材の皿の上だけには収まらなかった。
「キム係長。業者への連絡は必要です。ただし、食中毒と断定しないでください」
「ですが、保健所への報告は――」
「報告はします。原因欄は未確定。食品と水の両方を保存。調理済みのもの、残飯、調理に使った水、浄水器の水、すべて別にしてください」
キム係長は口を開いたまま固まった。
「水、ですか」
「給食を食べていない人にも症状が出ています。説明がつきません」
テオは言いながら、女の子の腹部を軽く押した。強い反跳痛はない。感染性胃腸炎の広がりにも見える。だが高熱、発疹、頭痛、そして水だけを飲んだ職員たち。すべてを一つの鍋へ戻すには、違和感が大きすぎた。
「ソジンさん」
呼ばれたソジンは、濡れたタオルを絞っていた手を止めた。
「はい」
「今日、学校へ入った水の出どころを確認してください。学校の貯水タンク、浄水器、給食室に入る水道。どの系統から来たか。面事務所、水道管理、誰でもいい。今すぐ」
ソジンの顔がわずかに強張った。
北の水。
テオはその言葉を口には出さなかった。以前、飲料水の経路を尋ねた時、ソジンは詮索を止めた。北側の話になると、島の人間の顔は揃って閉じた。だが閉じたままにしておける段階は過ぎていた。
「分かりました」
ソジンは短く答え、廊下の奥へ走った。職員室の電話を使うのだろう。彼の背中を目で追ったキム係長が、慌てて言った。
「北の水と言っても、今日は学校だけです。村全体を騒がせたら――」
「騒がせるかどうかの話ではありません。飲ませるかどうかの話です」
テオの声は低かった。キム係長は言い返せず、献立表を握りつぶした。
廊下では保護者の数が増えていた。玄関から校庭まで、人が固まっている。誰かが給食の魚が腐っていたと叫び、別の誰かが学校の管理が悪いと怒鳴った。噂は原因より早く走る。グムレはその前に立ち、作業上着の袖をまくったまま、母親たちを一人ずつ睨み返していた。
「名前を呼ばれた親だけ入れ。泣くなら外で泣け。中で吐いている子の空気を奪うな」
「うちの子を見せてください!」
「先生が呼ぶ。今押し込んだら、あんたの子の針も抜ける」
グムレの声は怒鳴りではなかった。だから余計に通った。保護者たちは泣きながらも、廊下の線の前で止まった。海女会の女たちがいつの間にか数人来ていて、洗面器とタオルを運び、汚れた床を黙って拭いていた。
テオは保健室と給食室を行き来した。給食室では大鍋のふたを閉めさせ、炒め物、汁、米飯、配膳前の水を別々の容器に入れさせた。浄水器の蛇口から出る水は透明に見えた。匂いも強くない。だが透明であることは、安全の証明ではなかった。
「飲まないでください。手洗いもできるだけ別の水で。口に入るものは止めます」
調理員が青ざめてうなずいた。
保健室へ戻ると、点滴の一本が半分を切っていた。テオは残量を見て、次に使う子を一人繰り上げた。高熱の女児がぼんやりと天井を見ている。頬は赤いのに手足は冷たい。
「名前は」
「チェ・スア、二年です」
担任が答えた。
「スアさん、聞こえますか」
女の子のまぶたが動いた。返事はない。テオは脈を取り、ソジンがいない位置へ視線を走らせた。
まだか。
胸元の名札が、動くたびに硬く当たった。ユン・ミンホ。三、十七。玉石浜。雨の前。そこへ、学校の浄水器の水が重なろうとしている。偶然なら、どれほどよかったか。
職員室の電話のベル音が廊下の奥で一度鳴り、すぐ途切れた。続いて、ソジンの足音が戻ってきた。普段なら無駄なく近づく足音が、その時だけ少し重かった。
彼は保健室の入口で止まった。顔色は、名札を見た時とは別の白さになっていた。
「先生」
テオは手元を離さず、女の子の瞳孔を確認した。
「言ってください」
「学校の水道は、昨日の夕方に一度圧が落ちたそうです。今朝、面事務所から連絡が来て、南側の系統では足りないから、午前中だけ北の貯水槽から回したと」
キム係長が、廊下の真ん中で息を呑んだ。
ソジンは続けた。声は低く、乾いていた。
「今日、学校に入った水は、村の北の貯水槽から引いてきたものです」
保健室の中で、誰かのうめき声だけが長く伸びた。
テオはゆっくり顔を上げた。子どもたちの腕に浮いた赤い線、叔父の燃え残った紙の「雨の降る前」、ボクナムが午前三時十七分に落ち着いた夜、ユン・ミンホの名札の裏の数字。日付と症状と降雨記録が、頭の中でばらばらの紙片ではなく、一本の線として重なり始めた。
そしてその線の先は、今も島の北で、誰かの手によって閉じられたままの貯水槽へ伸びていた。
その島では、雨が降る前に患者が増える
23話 貯水槽に残る新しい傷
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