鍵が回る音は、風の音より細く聞こえた。
キム係長が南京錠を外すと、錆びた輪の内側から湿った金属の匂いが立った。テオは扉を開ける前に、もう一度その銀色の傷へライトを当てた。古い錆の上だけが削れている。自然に剥がれたのではない。誰かが今夜、ここを開けようとしたか、開けたあとで慌てて閉じた。
「中へ」
テオが言うと、ソジンが先に懐中電灯を差し込んだ。倉庫の中は狭かった。壁際に塩素剤の袋、古い工具箱、ひびの入った計量カップ、点検用の長靴が並んでいる。床には雨水が入り込んだ跡が薄く残り、湿気を吸った紙の匂いが鼻を刺した。
キム係長は落ち着かない手つきでスイッチを探したが、電灯は二度ちらついただけでつかなかった。
「古いんです。昼間なら見えるんですが」
「ライトで十分です。記録はどこですか」
「奥の棚です。塩素投入記録と、清掃日誌、それから管理名簿が」
キム係長は言いながら、棚の前へ進んだ。だがテオより先に手を伸ばそうとした瞬間、ソジンが一歩横から光を入れた。キム係長の手が止まる。
「触る前に、見せてください」
テオは手袋を替えた。薄いゴムが指に張りつく感触だけが、頭を冷やしてくれた。棚の上段には、同じ背表紙の黒い帳簿が三冊あった。塩素投入記録。清掃日誌。管理名簿。表紙の端はふやけて丸まり、古い水染みが輪になっていた。
最初に塩素投入記録を開いた。日付、担当者、投入量、残留塩素の数値。最近の欄は、驚くほどきれいに埋まっていた。数字の癖は似ている。線の太さもほとんど同じだった。
「毎日、担当者が書いています」
キム係長が小さく言った。
テオは返事をしなかった。ページを一枚ずつめくる。腹痛と嘔吐を起こした今日。昨日。三日前。一週間前。空欄はない。数値は規定範囲内に収まっている。むしろ収まりすぎていた。
「清掃日誌」
ソジンが次の帳簿を寄せた。
清掃日誌も同じだった。月二回の清掃。異常なし。沈殿なし。臭気なし。担当印。確認印。最近のページだけ、インクが新しく濃い。紙の古さと文字の若さが合わなかった。
「この欄を書いたのは誰ですか」
テオが聞くと、キム係長は喉を鳴らした。
「水道担当です。私は窓口で預かるだけで、直接は」
「名前は」
「ローテーションで……担当者名は名簿に」
テオは三冊目を開いた。管理名簿。貯水槽を点検した者、鍵を借りた者、返却時刻、同行者の記録があるはずの帳簿だった。前のページには先週の前半までの日付がある。だが、そこから先がなかった。
ページの綴じ目に近い部分だけが、細く残っていた。紙が破れたのではない。端がまっすぐすぎた。薄い繊維が縦に裂けず、横に刃物で断たれている。ライトの光を当てると、切り口にまだ湿った影が残っていた。
ソジンの息が止まった。
「……そこです」
テオは日付を確認した。子どもたちが腹痛を起こした今日へつながる週。学校の水圧が落ち、北の貯水槽から水が回された日。北側の家の容器に黒い沈殿が見つかった日付。そこだけが、きれいに消えていた。
「この週の名簿は」
テオが言うと、キム係長はすぐに帳簿を閉じようとした。
「先生、古い帳簿ですから。湿気で糊が緩んで、前から抜けやすくなっていました。ここは海風も入りますし、管理が完璧とは――」
テオはその手首を押さえた。
強くではない。だが動けないだけの圧をかけた。
「今、閉じないでください」
「ですが、正式な調査でもないのに、夜中に勝手に――」
「子どもが倒れています。正式かどうかは、あとでいい」
キム係長は黙った。倉庫の外で風が扉を叩き、古い棚が小さく震えた。テオは切り取られた部分を直接触らず、証拠袋を開いて、綴じ目に残る湿った紙片の端へピンセットを差し込んだ。紙は思ったより柔らかく、少し動かしただけで繊維が崩れそうだった。
「ソジンさん。写真を。全体、切り口、前後の日付。キム係長の手も入らないように」
「はい」
ソジンは低く答え、携帯を構えた。光が揺れない。さっき南京錠の傷を見つけた時よりも、顔色は悪かったが、手は正確だった。
テオは切り取られた綴じ目に残る湿った部分を、紙ごと透明袋に入れた。袋の口を閉じる前に、わずかな臭いが上がった。土。金属。塩素。学校で集めた水筒の底にあった臭いと、完全には違わなかった。
「これは抜け落ちた跡ではありません」
「先生がそう見えるだけです」
キム係長の声は乾いていた。
「刃物です」
テオは短く言った。
「誰かが、この週だけを切り取りました。南京錠の傷が今夜ついたなら、切ったのも今夜かもしれない」
キム係長は反論しなかった。代わりに、扉の外へ目をやった。そこに誰かが立っているような見方だった。
倉庫を出る頃には、東の空がわずかに白んでいた。グムレは入口のそばで黙って待っていた。帳簿の切り口を見せると、彼女の目の奥に、怒りより先に冷えた理解が沈んだ。
「また紙か」
低い声だった。
「紙を消せば、人の腹の中まで消えると思ってるのか」
テオは答えなかった。答えれば、怒りが先に出る。今必要なのは、怒りではなく、残すことだった。
保健支所へ戻るまでに、噂はもう走り始めていた。誰かが貯水槽の帳簿を切った。北の水の記録がない。学校の子どもが倒れた週だけ消えた。まだテオが誰にも言っていない言葉まで、村の朝の中で形を変えながら増えていた。
精米所の前を通った時、シャッターは半分だけ上がっていた。中にドゥシクが立っているのが見えた。背の高い男ではないのに、薄暗い入口をふさぐように重かった。
ソジンが車の速度を落とした。
ドゥシクはテオたちを見た。正確には、テオの膝の上に置かれた透明袋を見た。切り取られた帳簿の湿った跡が入った袋。その視線が一瞬だけ止まり、次の瞬間、彼は何も言わずに顔をそむけた。
「チェさん」
ソジンが呼びかけようとしたが、ドゥシクは奥へ引っ込んだ。精米所の薄いシャッターが、ゆっくり下りていく。金属の音が朝の道に引っかかり、最後に細い隙間だけを残して止まった。
テオはその隙間を見つめた。
『知っている顔だ』
そう思った。罪を知っている顔ではない。恐れている顔だ。何が切り取られたのかだけでなく、切り取られたページに誰の名前があったのかを、ドゥシクは知っている。
保健支所へ戻ると、ミラが受付台に薬袋を並べていた。目の下には疲れが濃かったが、記録用紙はきちんと束ねられている。
「スアさん、明け方に水を少し飲めました。尿も少し出ています」
「体温は」
「三十七度八分まで下がりました。ただ、腹痛は残っています」
「経過を続けてください。尿は捨てないで、容器に保存を」
ミラはうなずき、それからテオの手元の袋に目を落とした。
「見つかったんですか」
「消えていました」
それだけで、ミラは理解した。彼女は唇を結び、棚の下から叔父の記録綴りを取り出した。テオは診察室の机に、切り取られた管理名簿の前後の日付、塩素投入記録、清掃日誌、学校の発症一覧を並べた。
叔父ハン・ジョンウの綴りを開く。赤い丸。青い線。黒い印。雨の前後。旧暦三月十七日。ユン・ミンホの名札。すでに何度も見た紙なのに、今朝は別のものに見えた。叔父はこの島の病を、最初から水の記録へつなげようとしていた。
テオは赤いペンを取った。子どもたちが倒れた日付。学校に北の貯水槽の水が入った日。管理名簿が切り取られている週。その三つを同じ線で結ぶ。
赤い線は、叔父の古い印の上を横切った。
「先生」
ミラの声が、診察室の入口で止まった。
振り返ると、彼女は透明なペットボトルを両手で持っていた。急いで持ち運んだものではない。振らないよう、底の沈殿を崩さないよう、まるで割れ物のように抱えている。
「学校で回収した水筒の中に、一本だけ別にしておいたものです。番号札がはがれていて、持ち主の確認がまだです。でも……底が」
テオは何も言わずに受け取った。ペットボトルの底には、黒くて細かい沈殿物が薄く沈んでいた。土にしては粒がそろい、錆にしては黒すぎる。彼はゆっくり窓辺へ歩き、明け方の光に瓶をかざした。
その島では、雨が降る前に患者が増える
25話 十八年前の台風特報の日
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