黄色に変わった生体タグを見た瞬間、イソは手首の痛みを忘れた。
「指揮官、放してください。今その一人を戻せなければ、次は三人になります」
ドヒョンの指は緩まなかった。中央画面の黄色い点だけが冷たく点滅している。外縁睡眠膜三。位置は壁際の下段、家族区画Cの端だった。
「命令系統を無視した配置は認めない」
「では命令として出してください。体温密度による再配置。責任は私が記録に残します」
「君に責任を取る権限はない」
「責任者の署名を待っている間に、体温は戻らなくなります」
イソはつかまれた手首をひねり、破れた紙片ごと自分の腕を引き抜いた。皮膚に鈍い痛みが走ったが、声は揺らさなかった。
「ラオン、内部網の低体温リスク名簿を全画面に。ハリン、医学的な優先順位をこの場で読み上げてください。反対する人にも聞こえるように」
ラオンは一拍だけドヒョンを見た。命令違反の線を越えるかどうか、その赤い目が測っていた。だが外縁の黄色タグが二度瞬くと、彼は端末を叩いた。
「リスク上位、抽出します。年齢、末梢温、負傷、服薬情報、体重。家族タグは別列に落とします」
ハリンも立ち上がった。白い医療ベストの胸元には、患者の毛布から移った赤い砂が擦れて付いていた。
「医学的には、低体温者を同じ場所に集めるだけでは足りない。冷えた人間同士を並べれば、全員の体温が落ちる。内側に低体温者、外側に発熱直後の作業者と体格の大きい成人。足先が白い人は通路側ではなく中央。乳幼児は親ごと内側。これは感情の問題じゃない。循環の問題です」
その言葉は怒号より強く通った。医師の声には、処置台の上で迷わない硬さがあった。
「聞いたでしょう」イソは破れた裏紙を掲げた。「混合宿舎一から四まで、今から移動します。親は子どもから離さない。認知症の家族も一緒に入れる。ただし周囲の人を変えます。寝床の境界は家族ではなく、熱の逃げ方で決めます」
「ふざけるな!」
通路の奥で、男が酸素ホースをまたいで立ちはだかった。腕には幼い男の子がしがみついている。別の女性が毛布を抱え、背後に高齢の母親を隠すようにした。
「知らない整備士の横に母を置けるか。夜中に何かあったら誰が責任を取る」
「私が見る」とハリンが即答した。「看護補助を各列に一人置く。発作、せん妄、呼吸低下は私の端末へ直結する」
「端末が母の手を握れるのか!」
叫びと同時に、通路が詰まった。移動を始めようとした低体温の老人が押され、足をもつれさせる。ミンジェが飛び込んで肩を支えたが、工具箱が酸素ホースに引っかかり、細い管が床を跳ねた。
「ホースを踏まないで!」
イソは人の隙間へ体を差し込んだ。怒鳴り合う親の肘が肩に当たり、誰かの荷物が脛を打った。火星の薄い重力のせいで、人の体は地球より軽く、簡単によろけてしまう。それでも密集した通路では、軽さがかえって危なかった。押された一人が倒れれば、毛布とホースと足が絡み、次の一人を巻き込む。
「右へ寄らないで。酸素ラインは左壁です。子どもを抱いた人から先に内側へ。歩ける成人はここで止まって」
「命令するな!」
罵声が耳元で弾けた。
「お前の図面のせいで落ちたんだろうが」
言い返す時間はなかった。イソは床の酸素ホースを拾い、低い支柱の内側へ回した。次に毛布を二枚つなげ、内側の寝床に座り込んだ老人の膝から足首まで包む。老人の爪先は白く、触れると硬い。
「ハリン、ここ」
「末梢冷感強い。内側二列目。隣に発熱作業者を」
「ミンジェ、整備班二人」
「キム、チャン、こっち。工具は置け。体だけでいい」
ミンジェの声に、さっきまで怒っていた整備班の男たちがしぶしぶ動いた。彼らは老人の外側に腰を下ろし、毛布の端を自分の体の下へ巻き込む。狭い。肘と膝がぶつかり、誰も快適ではない。だが熱分布図の一角で、青の広がりがわずかに止まった。
ラオンが中央画面を見上げた。
「混合宿舎一、内側温度の低下が鈍りました。まだ安全線ではありませんが、落ち方は半分です」
その報告が、迷っていた人々の背中を押した。泣いていた母親が子どもを抱いたまま内側へ進み、ベルの班の女性技術者がその外側へ座る。高齢の男性が家族と離れるのを拒んで暴れかけると、ハリンが彼の目の高さに膝をついた。
「家族はすぐそこ。あなたの手が届く距離です。でも足は中央へ向けて。心臓に戻す血を冷やさない」
短い説明だった。男性は震える手で娘の袖をつかみ、娘も泣きながら隣に座った。イソはその間に寝床の線をさらに詰めた。酸素ホースを通路側へ通し直し、つまずきやすい接続部を支柱へ固定した。荷物は足元から全部どかせた。貴重品だと怒鳴る声には、ラオンが記録番号を貼って一か所に積むことで黙らせた。
「混合宿舎二、満床」
「三はあと五人」
「外縁膜三の黄色タグ、二つ目が出ました」
報告が飛び交う。イソは返事をしながら手を止めなかった。ペンで書いた割当表はもう汚れ、毛布の上で何度も折れた。だがそこにある名前は生きている人間の順番だった。誰の隣に誰を置けば夜を越せるか。その一点だけを見れば、線はまだ引けた。
ふと、ソウルの撤去現場の避難所が重なった。
濡れた体育館の床。停電で真っ暗になった夜。半地下から逃げてきた老人が、見知らぬ子どもの背中をさすり、作業服の男が自分の上着を二枚に分けていた。最初は皆、家族の輪だけを守ろうとした。けれど寒さが長引くと、輪は崩れるのではなく、別の形に組み変わった。
火星の仮設基地で、同じ光景が生まれていた。違うのは、窓の外が雨ではなく赤い砂で、壁の向こうにあるのが取り壊しの重機ではなく、マイナス八十度の夜だということだけだった。
ドヒョンは中央通路の端に立ったまま、混合宿舎が形を持っていくのを見ていた。彼の顔には怒りが残っている。だが部下へ止めろとは言わなかった。言えば、この動きが本当に反乱になる。言わなければ、指揮はすでに別の場所で生まれている。
「混合宿舎四、最後の組です」
ラオンの声がかすれた。外縁膜三から運ばれてきた小柄な祖母と、十二歳ほどの少年、その母親。外側に入る成人が足りず、整備班はもう使い切っていた。
ベルが周囲を見回し、自分の防護服の前を開けた。
「私が入る。三十分後に起こしてください」
「技術チーム長まで入ったら、呼び出しが遅れます」
「呼び出される前に凍ったら、技術もありません」
イソは短くうなずいた。ベルを外側に置き、母親を子どもの隣へ、祖母を中央へ滑り込ませた。酸素ホースの曲がりを直し、毛布の端を四人の体の下へ押し込んだ。
「完了」
誰かが息を吐いた。居住膜全体が、長く止めていた呼吸を一斉に戻したようだった。中央画面の熱分布はまだ危険な色を残していたが、外縁から中央へ走っていた青い裂け目は細くなっている。
その瞬間、暖房制御盤が低い音を立てた。
《出力再配分。暖房コア一、保護運転へ移行。居住膜全体出力、さらに十二パーセント低下》
安堵は、一秒で凍った。
続けて別の警告が開いた。混合宿舎へ移った区域ではない。最後まで移動を拒み、元の家族区画に残っていた外縁膜の一つが、熱分布図の端で黒に近い青へ落ち込んでいた。
ラオンが声を失いかけながら読んだ。
「外縁睡眠膜五、局所温度が急落。最低温度、医療限界線まで……十二分」
イソは顔を上げた。そこには、混合割り当てを拒んだ家族たちの生体タグが、まだ十七個残っていた。
帰る船を燃やした朝、火星に憲章が生まれた
8話 外縁膜に刻まれた切断跡
次の話