小さな爆発音は、第二換気塔からだった。
ドギョムは補助端末の赤い表示を見たまま、一秒だけ動きを止める。第二換気塔、異常起爆。主爆薬ではない。塔を完全に落とすための量でもない。だが、切れ残った導火線の一筋が、短縮されたタイマーへ先に届いたのだと分かる。
坑道の奥で、空気が押し返される。粉塵が白く舞い、発電機の唸りが一瞬だけ低く沈む。天井のどこかで石が割れる音がした。
「伏せろ」
布を噛まされたままの四人に届くかどうか分からない声で、ドギョムは言う。
次の瞬間、坑道奥の天井から太い石が二つ落ちた。ひとつはレール脇の枕木を砕き、もうひとつは本坑道最後の位置の横、まだ生きているコンクリート壁の前へ重く跳ねる。壁の一面が内側から息をするように揺れ、細い亀裂が横へ走る。
アルマが喉の奥で悲鳴を殺す。メアリー・ルイスは鎖を引きかけ、若い男が肩で彼女を止める。ジョアンは天井ではなく、端末を見ている。残り時間を読もうとしている目だ。
ドギョムは補助端末へ戻る。画面は警告で赤く染まり、第二換気塔の欄が点滅している。最奥の手動連動はまだ生きている。換気塔連動は個別確認。残り十九分五十秒。
短い。短すぎる。
彼は四十の欄を押す。端末が一拍遅れ、拒否の赤枠を出す。第二換気塔異常のため確認入力、と小さく出る。ドギョムは舌打ちしない。マローンの外套から抜いた細い発火キーを端末横のスロットへ差し、折れた膝の男の呻きを背中で聞きながら、もう一度押す。
四十。
今度は表示が灰色へ落ち、最奥、補助、手動連動の三項目が遅延待機へ変わる。数字が十九分から跳ね、三十九分五十八秒で止まる。
完全な解除ではない。死体の脈を遅くしただけだ。
それでも、今必要なのは息だった。
ドギョムは端末を坑木の根元へ置き、ケーブルに足が引っかからない角度へずらす。マローンが喉を鳴らす。顎がずれているせいで、言葉にはならない。だが目は動く。助けを呼ぶ目ではない。四人と端末と出口をまだ数えている目だ。
「数えるな」
ドギョムは言い、マローンの鎖の連結ピンをさらに深く押し込む。油で濡れた太い輪が坑木へ食い込み、ワイヤーが肩と手首を二重に締める。刃物なしではほどけない。刃物を持った部下が来る前に、ここは崩れる。
ジョアンの鎖へ向かう。
「足は」
布を外す時間を惜しみ、彼は短く問う。
ジョアンは左足首をわずかに動かし、すぐ顔を歪める。折れてはいない。だが歩ける足ではない。長く引きずられた鎖跡が紫に腫れ、裸足の皮膚は裂けている。
ドギョムは答えを待たず、カッターを鎖の細い留め具へ入れる。火花を出さない角度で、ワイヤーだけを噛ませる。一度目では切れない。二度目で繊維がほどけ、三度目で金属が跳ねる。
ジョアンの右手が自由になる。続けて左。足首の輪は太い。彼はマローンの工具袋から古いボルトカッターを引き寄せ、肋骨の痛む側に力をかけないよう膝を床へつく。柄を押し込むと、胸の内側が白く弾ける。息が浅くなる。
『長く吸うな』
声に出さずにそう言葉を切り、もう一度柄を押し込む。
輪が割れた。
ジョアンは崩れかけるが、ドギョムが肩で受ける。彼女の体は軽すぎる。骨と熱と粉塵だけの重さだ。
次にアルマ。彼女の布を外すと、最初に出た言葉はやはり弟の名だった。
「ミゲルは」
「生きてる」
ドギョムは鎖を切りながら答える。
アルマの目が一度だけ閉じる。泣くためではない。立つために、今必要ないものを奥へ押し込む顔だ。
「歩けるか」
「引ける」
答えは短い。声はかすれているが、折れていない。
ドギョムは彼女の手首の輪を外し、足首の鎖を切る。足裏の裂け目が粉塵で黒く汚れている。まともに走れる足ではない。それでも、彼女は膝を立てる。
メアリー・ルイスの番になると、女は自分の名をまだ信じきれない顔でドギョムを見る。
「メアリー」
彼はもう一度だけ呼ぶ。
それだけで、彼女の目に焦点が戻る。布を外された口から、空気が震えて入る。
「立て」
「……はい」
彼女は鎖が切れた瞬間、倒れそうになる。アルマが片腕をつかむ。若い男は自分の鎖を切られる前から、体を前へ乗り出している。恐怖ではなく焦りだ。誰かを置くことを、もう一度やりたくない顔だった。
ドギョムは若い男の手首、足首の順に切る。最後の輪が落ちたところで、坑道奥がまた鳴る。さっき落ちた石ではない。第二換気塔の上で崩れた空気が、遅れて本坑道へ押し寄せている。コンクリート壁の亀裂から砂が吐き出され、細い灰色の筋が床へ伸びる。
「最奥は止めないの」
ジョアンがかすれた声で言う。
ドギョムは端末を見る。三十八分台。最奥位置の爆薬は本坑道最後のコンクリートの向こう、いちばん奥だ。そこへ行き、外し、戻るには時間も足も足りない。いま向かえば四人はここで終わる。
「止める時間はない」
彼は言う。
ジョアンは反論しない。記者の目で、もう答えを知っている。
ドギョムはカッターをアルマの手に握らせる。刃を出していない、閉じたままの柄だ。
「落とすな。絡んだら切れ。人を切るな」
アルマはうなずく。震える指に、力が戻る。
ドギョムはジョアンの前に背を向けて膝をつく。
「乗れ」
「あなたの肋骨が」
「今は数えない」
ジョアンは一瞬だけ笑いそうな顔をし、すぐ痛みで消える。両腕をドギョムの肩へ回す。爪のない指が外套をつかめず滑るので、彼は彼女の手首を前で交差させ、自分の胸で押さえる。左肋骨が抗議するが、倒れるほどではない。
アルマはメアリーの手首と若い男の袖をつかむ。若い男は逆にメアリーの肘を支える。三人の列はひどく弱い。だがつながっている。
ドギョムは最初に入ってきた換気口の方角を見る。第一換気塔へ戻る道だ。狭い亀裂、落ちた粉塵、さっき異常起爆した第二換気塔の揺れ。もう一度崩れれば、上から抜ける者は途中で潰される。
使えない。
彼はレールの下り側へ視線を移す。マローンが薬品を運び出すために開けておいた山道出口。帳簿にない出口。鉱車が通る幅があり、トラックを横付けできる。D-3を人と薬品の腹にしていた、逃がすための口だ。
「山道出口へ行く」
ジョアンが背中で息をのむ。
「そこは、マローンの」
「だから広い」
ドギョムは歩き出す。
一歩ごとに、ジョアンの重みと肋骨の痛みがぶつかる。彼は速度を上げすぎない。転べば全員が止まる。レール脇の枕木だけを踏み、落ちた石を避け、粉塵の薄い場所を選ぶ。
背後でマローンが呻く。
顎のずれた音は、獣の唸りにも人の言葉にもならない。だが憎しみだけは伝わる。太い鎖が坑木を鳴らし、ワイヤーが軋む。彼は片膝と外れた肩で体を起こそうとするが、連結ピンが輪を噛み、ほどけない。ほどこうとすればするほど、壊れた関節が体を床へ戻す。
ドギョムは振り返らない。
アルマだけが一度、肩越しに見る。マローンの目と合い、彼女はカッターの柄を握り直す。殺すためではない。切って進むために。
本坑道最後の位置で、またコンクリートが揺れる。今度は低い。腹の底に沈むような音だ。端末で遅らせた爆薬がまだ生きていることを、坑道そのものが知らせてくる。
山道出口の方から、冷たい外気が流れ込む。雨と泥とディーゼルの匂い。あと数十歩で、鉱車の積み出し場だ。
その時だった。
闇の先、曲がり角の向こうに、薄い光が差した。
ドギョムは足を止める。アルマの列も止まる。ジョアンの息が首の横で止まる。
光は一つではない。ヘッドライト一組。外からではなく、山道出口の方から、ゆっくり内側へ曲がってくる。エンジン音は低く抑えられ、ライトは坑道の壁を白くなぞりながら、彼らの逃げ道を塞ぐ位置へ近づいていた。
マローンの潰れた喉が、背後で笑い損ねたように鳴る。
ドギョムはジョアンを背負ったまま、片手を空け、床に蹴っておいた拳銃のない腰へ反射的に動かす。そこには何もない。
次の瞬間、ヘッドライトが鉱車レールの上で止まり、運転席の影がこちらを向いた。
法が遅すぎる町で、今日倒すべき悪党を倒す男
110話 粉塵を裂いた青い警光
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