赤い点滅を、ドギョムは一度だけ見る。三秒ごとに生きている小さな光。監視カメラの首は止まっていても、どこかへ異常だけは吐いている。長くはない。
彼は鍵束を握り直し、鉄網へ向かう。先にミゲルの区画だ。アルマの方へ目をやりたい衝動を切る。二つ同時には開けない。開ける順番を間違えれば、どちらも失う。
鉄網の南京錠は古いが、鎖は新しい。鍵穴の周囲に粉塵と油が固まっている。ドギョムは奪った坑道出入カードの硬い縁を錠前と鎖の間へ差し込み、もう片方の手で鍵束の一本を浅く入れる。回すのではなく、押し上げる。カードが薄くしなり、内部の爪が一拍だけ浮いた。
かちり、と音が落ちる。
ミゲルは膝をついたまま、まだ箱のラベルを移している。顔を上げてはいけないと体が覚えている。細い肩が震え、右手の布の上で腫れた二本の指が不自然に曲がっていた。ドギョムの軍用ブーツが鉄網の内側へ入ると、少年の目が足元で止まる。
ラベルが一枚、指から滑り落ちた。
白い紙は膝の前に落ち、薬品箱の横で裏返る。ミゲルはそれを拾おうとして、痛みに息を詰まらせる。ドギョムはしゃがみ、何も尋ねず、その手首を取る。
折られているのは人差し指と中指。爪先ではない。第二関節と第三関節の間に腫れが集まり、無理に使わせたせいで布の下が湿っている。骨を戻す場所ではない。今は動かさない形を作るだけだ。
ドギョムは倒した見張りの腰から取った圧迫包帯をほどく。短く裂いたラベル台の薄い木片を二本、指の両側へ当てる。ミゲルが唇を噛む。血の乾いた下唇がまた少し割れる。
「息を吐け」
ミゲルは声を出さずに吐く。ドギョムはその瞬間に包帯を巻き、指二本を一緒に固定する。きつすぎれば血が止まる。緩ければ移動中にまた折れる。軍で覚えた処置ではなく、雨の町で何度も間に合わせてきた手つきだった。
ミゲルの視線がドギョムの顔へ上がる。恐怖と、遅れて届いた安堵と、伝えなければならない焦りが一緒に詰まっている。
「放送室のカセット一本は弁当箱の底に挟みました。もう一本は壊されました」
声は低い。震えているが、逃げてはいない。
ドギョムはうなずくだけだった。弁当箱。底。一本は残った。その一本が何を録っていたか、少年がどれだけ殴られても言わなかったことが、その短い報告だけでわかる。
「立てるか」
ミゲルは膝を動かそうとして顔を歪める。立てない。立てても足音が出る。ドギョムは答えを待たず、少年の脇へ腕を入れた。鉄網の外へ引き出す時も、肩を担ぐ角度を変え、折れた指が箱に当たらないようにする。
その時、坑道の奥で足音が返った。
ただの足音ではない。硬い靴底がレールの外側を踏み、途中で止まり、また近づく。先に外へ散らした三一や三二の歩幅ではない。もっと短く、急いでいる。無線を聞きながら戻る者の足だ。
班長だ。
床の無線機が鳴る。
「三三、応答しろ。作業場、遮断音の報告を入れろ」
ドギョムはミゲルを抱え直し、鉱車の方へ向かう。半分積まれていた一両の中身を手早く降ろし、空の木枠と薬品箱を床へ滑らせる。鉱車の内側は油と粉でざらついているが、箱の底に古い麻布があった。彼はそれを広げ、ミゲルを横向きに寝かせる。
「息を小さく。箱が動いても声を出すな」
ミゲルはうなずく。ドギョムは空の薬品箱を三つ、鉱車の内側へ斜めに積む。完全に塞がない。空気の通る隙間を残し、外からは荷物の崩れに見える高さにする。少年の弁当箱は腹の下へ押し込ませた。
レール分岐までは五歩。作業場側から見れば、ただの積み残しの鉱車だ。ドギョムは車輪止めを外し、肩で押す。錆びた車輪が小さく鳴りかける。彼は掌で車体を押さえ、音を殺す。鉱車は一両ぶんだけ分岐の奥へ沈み、影の中に半分隠れた。
足音はもう近い。
ドギョムは床に落ちたラベルを拾わない。拾えば不自然にきれいになる。代わりに、倒した見張りの片足を少しだけ外へ見える位置へずらす。異常を見つけた者の目は、まずわかりやすいものへ行く。
班長が作業場へ入ってきた。
小柄な男だった。安全帽をかぶり、腰に無線機と鍵束を下げている。腹より目が硬い。郡リハビリセンターの夜間清掃班の班長と同じ種類の男だ。殴るために来たのではなく、止める場所を決めるために来る男。
彼は最初に消えた灯りを見る。次に止まったラインを見る。最後に、連結鎖に縛られた部下の靴を見つける。顔が変わらない。驚きは一瞬だけ目の奥を通り、すぐ命令の形へ戻る。
床のラベルが、彼の足元で白く見えた。
班長はしゃがまない。拾わず、見るだけで足りると判断する。次の瞬間、腰の無線機へ手を伸ばした。
「マローンさん、作業場が――」
言い終える前に、ドギョムは薬品箱の山の後ろから出る。手は無線機を持った手首へ行く。銃ではない。叫ぶ口でもない。最初に折るべきなのは、外へ線をつなぐ手だ。
手首をつかみ、親指側を固定し、小指側へ落とす。乾いた音がした。班長の声が喉で潰れる。無線機が床へ落ちかけるが、ドギョムは靴先で受け、音を半分にする。
班長は反射で反対の手をベルトへ伸ばす。鍵束かナイフか。どちらでも同じだ。ドギョムは肘を押し、肩を坑木へ打ちつける。肺から息が抜けたところへ、坑道用の厚い布を口へ押し込む。布には油と粉塵の臭いが染みている。声はそこに吸われる。
「動くな」
班長の目が怒りで細くなる。ドギョムは答えを待たず、梱包バンドとケーブルで両手を後ろに回し、坑木へ縛りつける。折れた手首が少しでも動けば痛みが走る角度だ。殺さない。だがほどけない。
床の無線機が、班長の名を呼んでいる。
「応答しろ。作業場、応答しろ」
声は班長ではない。マローンだ。さっきより低い。怒鳴ってはいないのに、太くなっている。異常を疑う声ではなく、異常が起きたと決めた声だった。
ドギョムは無線機を拾わない。拾えば返したくなる。返せば位置を渡す。彼は班長のベルトから鍵束を抜き、二つ目の鉄網を見る。
アルマとほかの子供たちの区画まで、残る距離は鉱車二両ぶん。
たったそれだけの距離に、レールと薬品箱と赤い補助灯と、マローンの声が挟まっている。アルマは向こうの鉄網の内側で膝をつき、こちらを見ていないふりをしている。けれど肩の固まり方が、もうすべてを聞いていた。
無線がまた鳴った。
「点呼を切る。三十秒だ。返らなければ、子供の区画を閉じろ」
ドギョムの指が鍵束の中で一本を選ぶ。
その瞬間、赤い補助灯の点滅が三秒から一秒へ変わった。
法が遅すぎる町で、今日倒すべき悪党を倒す男
75話 赤灯に浮かぶJRの扉
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