ラウクの声が消えたあとも、受信機はしばらく濡れた紙を裂くような音を吐き続ける。
教会地下室では、誰もすぐには動かない。命令の意味を、それぞれが自分の位置で飲み込む。鉄道駅にはラウク本人。教会と広場は同時。つまり、こちらの五本の線のうち、少なくとも三本はもう相手の地図にも引かれている。
ドギョムは受信機のつまみを絞る。沈黙が戻る。彼は壇の上に並べたキー、清掃業者のカード、黒い変換器を一つずつ拾い、古いダッフルバッグの外ポケットへ入れる。ルーファスの廃トラックのキーは金属が少し曲がっている。変換器は布で巻き、カードは折れないよう内側へ滑らせる。
「予定は変えない」
彼が言うと、ヘナが階段下から視線だけを向ける。
「向こうが同時に来るなら」
「こっちも同時に出る」
短い答えで、地下室の全員が息を戻す。怖くなくなったわけではない。だが恐怖を持ったまま手を動かす段階に入った。
ヘナは信徒席の下へ潜る。古い床板の隙間に非常用発電機の排気管が通され、スイッチの横には聖歌集の箱と軍用毛布が重なっている。彼女は毛布をめくり、発電機の燃料計、予備ケーブル、手動遮断のレバーを指で確認する。撃つための位置ではない。明かりを消し、また点けるための位置だ。
「私が落とす。戻すのも私」
「戻せない時は」
ドギョムが問う。
ヘナは左手首の火傷跡を見もせず、レバーの横へ指を置く。
「戻さない。暗いまま逃がす」
ジョアンは壇の横で、古いノートパソコンの画面を見つめている。右手の包帯には新しい血が染み、左手だけでトラックパッドを動かす。送信予約の画面には、二十三時ちょうどの数字が灰色の枠で固定されている。彼女は一度閉じ、もう一度開き、宛先と添付名を確認する。
「時刻は」
グラディスが聞く。
「二十三時、ゼロ、ゼロ」
ジョアンの声は細いが、数字だけは揺れない。
「ずれは」
「端末側が三秒早い。スクリプト側で吸収する」
ドギョムは画面をのぞかない。彼女が数字を守っているなら、それでいい。ジョアンは最後に送信先の一つ、州警察汚職捜査課のアドレスを指先でなぞり、血がつかないよう拳を握り直す。
グラディスは南の食料品店の冷蔵倉庫へ運ぶ端末を、毛布で二重に包む。彼女の細い肩には大きすぎる重さだが、手は離さない。無線受信機の小さな側面を開き、細いケーブルを差す。チャンネル表示は欠けていて、数字の半分しか読めない。
「三秒の無音を二回。ほかでは動かない」
彼女は自分へ言い聞かせるように繰り返す。
「一回なら」
「待つ」
「二回なら」
「走る」
ディナが横から答える。彼女は封筒ノートの写しを四つに分けている。大きな封筒のまま持てば、奪われた時に全部消える。薄いビニールに包み直し、自分の外套の内ポケット、腰の縫い目、靴下の内側、そしてヘナの予備の外套へ差し込む。指が震えているが、折り目はまっすぐだ。
「トミーの分は私が持つ」
ディナが言う。
「全部がトミーの分だ」
ドギョムは返す。
彼女は一瞬だけ目を閉じる。泣くためではない。言葉を飲み込むためだ。それから最後の写しを胸元へ入れ、ボタンを二つずらして留める。見つける側は弱っている人間のポケットを最後に見る。いつか彼女がアルマへ言ったことを、今度は自分の体でやっている。
ミゲルはドローン部品を隠した弁当箱を抱え、地下室の壁際で布に包んだ赤と黒の機体を最後に確認する。プロペラは外してあり、予備のバッテリーは別の菓子箱へ入れてある。腫れた二本の指はまだ添え木に固定されているが、彼は痛いとは言わない。
「屋上まで一人で行けるか」
ドギョムが聞く。
「行けます」
「学校前の黒いピックアップを覚えてるな」
「一回目は見てた。二回目は探してた」
ミゲルはアルマを見ずに答える。見れば、足が止まるとわかっている。
アルマは彼の背中に古いジャケットを掛ける。袖口の縫い目に小さな紙片が入っている。彼女はそれを何も言わず押さえ、弟の肩を一度だけ強く握る。
「飛ばしたら、屋上に残らないで」
「映ればいい」
「生きても戻って」
ミゲルの喉が動く。だが答えは短い。
「戻る」
その言葉だけを置いて、彼は階段へ向かう。ヘナが扉を少し開け、雨と夕方の湿った風が地下へ落ちる。外に出る直前、ミゲルは弁当箱の金具を一度だけ鳴らしそうになり、指で押さえて止める。尾灯はまだ点けない。点けるのは屋上で、一度ずつだ。
ドギョムはダッフルバッグを肩に掛ける。重さは軽い。軽すぎる。拳銃を入れない分だけ、空白がある。彼はその空白に手を入れず、バッグの口を閉める。
ヘナが階段下から言う。
「戻る道は」
「路地で拾う」
「拾えなかったら」
「歩く」
「歩けなかったら」
ドギョムは少しだけ彼女を見る。
「這う」
ヘナはそれ以上聞かない。彼が冗談を言わないことを知っている。彼は這ってでも行く場所へ行くし、這って戻る場所がなくなれば、戻らない。
外は雨が弱まっている。決戦の夜には都合の悪い、小さな雨だ。音を隠しきれず、足跡だけを残す。ドギョムは教会の裏口から出て、墓石の倒れた影を抜ける。南へ向かうグラディスとディナの小さな背中は、食料品店の倉庫へ消えるまで見ない。見れば、配置が揺らぐ。
ミゲルは学校へ回る。黒いピックアップが正門前にいないことを確認してから、体育館裏の非常階段へ上がる。屋上のフェンスの内側で、赤い機体と黒い機体を組み直す。指は二度滑る。彼は歯を食いしばり、プロペラの留め具を締める。尾灯を一度だけ押す。赤い点が雨粒に滲んですぐ消える。次に黒い機体の尾灯を押す。こちらも一度だけ。航路は頭に入っている。リハビリセンター裏庭、D-3換気塔、山道出口、郡道八十一号線南側分岐。その先は、電池が尽きるまで。
同じ頃、グラディスは冷蔵倉庫の奥で外来受付端末を台の上に置く。肉の箱と冷気の匂いの中、彼女は電源を入れ、無線受信機のケーブルをつなぐ。ディナは扉の内側に立ち、封筒ノートの写しを抱えたまま、外の足音を数える。端末の画面に郡病院の古いロゴが出る。グラディスは震える指で、送信待機の小窓を開いた。
ドギョムは町の中心へ入る。コンベンションホール広場の向こうでは、仮設舞台の照明が白く立ち上がり、町長プライスの声がマイクテストで何度も割れる。州知事の車列はまだ着いていない。だが記者席のライトはもう赤い。
彼は広場へは行かない。反対側の旧車両登録事務所脇の路地へ入る。以前、坑道図面を盗み出した薄茶の平屋は、雨に濡れて壁が暗く沈んでいる。路地の奥には壊れた電話ボックス、傾いた標識、廃トラック一台分の影。カジノシャトルはこの角をゆっくり曲がってくるはずだ。
ドギョムはバッグを足元へ置き、黒い変換器ではなく二十五セント硬貨を取り出す。濡れた指先に硬貨の縁が冷たい。フィントンが鞄を抱えて降りるまで、割るものは一つ。運転席側のサイドミラー。視界が潰れれば、運転手は車内に留まる。降りるのは鞄を持つ男だけだ。
受信機がバッグの中で小さく震える。ノイズの奥に、さっきと同じ声が一瞬だけ戻る。
「鉄道駅には俺が行く。教会と広場は同時に叩け」
録音ではない。まだ命令が流れている。ドギョムは応答しない。広場の拍手が遠くで起き、すぐ薄くなる。どこかで大型スクリーンの試験映像が切り替わったのか、白い光が建物の壁を一瞬照らした。
路地の入口にヘッドライトが現れる。
カジノシャトルの低いライトが、ゆっくりと濡れたアスファルトを舐めて曲がってくる。運転席には通常の手配運転手ではなく、マローン側の男が座っているはずだ。
ドギョムは硬貨を指に挟み直す。フィントンを逃がすための罠が、路地へ入ってくる。
法が遅すぎる町で、今日倒すべき悪党を倒す男
92話 フィントン確保とD-3の図
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