ジェユンは差し出された束をすぐには受け取らなかった。雨上がりの駐車場には泥と機械油の匂いが残り、老人の両手だけがひどく乾いて見えた。厚い運行日誌は黒い布で巻かれ、角が擦り切れて白くなっていた。
ソンロクが一歩前へ出かけたが、ジェユンは小さく首を振った。ここで父が触れれば、後で誰かに見られた時、紙の出どころが父へ寄る。
「食堂の裏で見ます」
カン・デシクは顔を上げた。深く刻まれた皺の奥で、目だけがまだ運転席の鏡を見ているように細かった。
「はい。人の目が少ない場所で」
スネは何も聞かず、食堂の裏口を開けた。ミョンスも門番日誌を抱え、来訪時刻だけを一行書いてから外へ出た。老人の軽自動車の番号も、泥で隠れていない下三桁だけを控える。ジェユンが頼む前にそうした。
食堂裏の長机には、朝まで乾かしていた豪雨のファクスがまだ残っていた。平沢ラインの紙の横へ、カン・デシクは黒い布包みを置いた。布をほどくと、革表紙の帳簿が三冊、輪ゴムでまとめられていた。紙は黄ばみ、端には煙草の匂いと古い車内の革の匂いが染みついていた。
「なぜ、僕へ持ってきたんですか」
ジェユンはまずそこを尋ねた。
カン・デシクは背筋を曲げたまま、両手を膝の上に置いた。
「オ・マンシクから聞きました。牙山に、子どもなのに記録を残す者がいると。会社の紙ではなく、人の名前を残す子だと」
「マンシクさんが、僕の名前を?」
「名は言いませんでした。ただ、赤い線を引いた古い名前を見て、いずれそちらから来るだろうと。ですが、待つ時間がありませんでした」
老人の声は丁寧だったが、急いでいた。体が急いでいるのではない。背後から追ってくるものに、先に紙だけを逃がそうとする人間の声だった。
ジェユンは帳簿の一冊目を開いた。日付、車両番号、出発地、到着地、待機時間、同乗者。字は細かく、揺れが少なかった。運転席で見たものだけを書く者の字だった。
城北洞別宅。
テガン家楊平別荘。
会長夫人墓参。
夜間、城北洞戻り。
廃整備工場、臨時点検。
行き先は、公式日程表で見たことのある場所と、見たことのない場所が混ざっていた。だが、後者のほうが重要だった。公式に残す必要のない移動ではなく、公式に残してはならない移動。
ジェユンは息を浅くした。前世の随行秘書だった頃、彼は会長家の扉の前で待つ側だった。中で誰が何を決めたかは見えない。だが車がどこへ行き、何分停まり、誰が先に降り、誰が後から乗ったかは、運転手の紙に残る。
『秘書室より、運転席のほうが近い』
回帰した朝に抱いた考えが、今ここで古い帳簿の形になっていた。
「これは会長車ですか」
「別荘専用車です。会長車と表に出る時もありましたが、私が扱ったのは、主に別荘と城北洞の非公式移動でした」
「チャン・ムンシク室長の名前は」
「毎回は書けませんでした。ですが、同乗者欄にCMと書いたものがあります」
ジェユンはページをめくった。CM。HGS。時に、長男とだけ書かれた欄。ハン・ギソプ、チャン・ムンシク、ハン・ドギョム。それぞれを直接書く代わりに、運転手だけが分かる印で残してある。
二冊目に入ったところで、指が止まった。
ある日付の行だけが、異様に白かった。前後の紙は黄ばんでいるのに、そこだけ薄皮を剥がれたように荒れていた。日付の左端だけ残り、行き先、時刻、車両番号、同乗者欄が、刃物で削られたように消えている。インクを塗ったのではない。紙そのものを削り取っていた。
ミョンスが横から覗き込み、顔をしかめた。
「破ったんじゃないな」
「破れば、日付ごと消えます。これは一行だけ残さないためです」
ジェユンは指で触れなかった。紙の毛羽立ちを目で追う。削った跡は古かった。最近のものではない。湿気を吸って、もう紙の一部になっている。
「この日付だけ、なぜ残したんですか」
「残したのではありません。消されたのです」
カン・デシクが答えた。
「その日のあと、日誌を一度、本館へ出しました。翌朝戻ってきた時、その一行がなくなっていました」
「誰が持っていったんです」
「秘書室です。私は、そう聞かされました」
秘書室。ジェユンの喉の奥に、前世で何度も聞いた内線音が蘇った。公式に存在しない書類を回収する時、彼らはいつも部署名をぼかした。だが現場ではみな知っていた。秘書室と言えば、チャン・ムンシクだった。
ジェユンはかばんから自分のノートを出した。そこには本館で拾った会長公式日程表の写し、新聞切り抜き、父の運行補助簿から写した日付が、月ごとに並んでいた。スネが黙って濡れていない台布巾を一枚敷き、紙が油を吸わないようにした。
「その日、会長の公式予定は」
ジェユンはページを追った。ハン・ギソプ会長の予定欄は、昼の会議も、夕方の会食も、翌朝の出発も、前後の日付には細かく記されていた。ところが消された一行と同じ日から翌朝にかけて、丸ごと空白になっている。会長だけではない。秘書室の随行表にも抜けがあった。
鉛筆の先が止まった。
「公式日程でも抜けています」
スネが低く言った。
「偶然じゃないわね」
「偶然なら、片方だけ空くはずです」
ジェユンは日誌と公式表を並べた。片方は削られ、片方は最初から何もなかったことになっている。金の流れなら、名義を替え、会社を挟み、時間を稼げる。だが人と車の動きは違う。車はどこかを通り、誰かの前で停まる。走った道の周りに、必ず低い場所の目が残る。
財閥家が最も恐れるのは、金額そのものではない。
誰が、いつ、どこにいたか。
その空白だった。
ジェユンの胸の奥に、前世の護送車が路肩へ寄った夜が一瞬よぎった。だが、この日誌から立ち上がる匂いは、自分の死とは違っていた。もっと古い。紙の奥から乾いた血のように滲む、別の事件の匂いだった。
「その夜、何がありましたか」
ミョンスが耐えきれずに尋ねた。
カン・デシクはすぐには答えなかった。薄い唇が一度だけ動き、また閉じる。答えを持っている者の沈黙ではない。答えを口にした後の人生を知っている者の沈黙だった。
「今は聞きません」
ジェユンが先に言った。
ミョンスが驚いて振り向いた。スネも鍋のふたを置く手を止める。
ジェユンは日誌を閉じた。革表紙が乾いた音を立てる。
「追う順番が違います。今ここで掘れば、日誌ごと奪われます。消された日付を知っている人が、まだこちらを確認していないうちに、紙を分けます」
「分ける?」
「原本を一か所に置きません。今日ここで全部読み切ることもしません。日付、削られた頁、前後三日の運行だけ写します。原本は別々の人へ預けます」
カン・デシクは初めて顔を上げた。しわの奥の目に、わずかな安堵と、さらに深い恐怖が同時に浮かんだ。
「それが、あなたのやり方ですか」
「消される紙を見てきましたから」
ジェユンは静かに答えた。
ソンロクは入口のそばで黙っていた。父の視線は日誌ではなく、削られた一行の日付に釘づけになっているように見えた。ジェユンはそれに気づいたが、何も聞かなかった。父の肩は、釜山の火災現場で白紙確認書を見た時よりも固い。
それでも、今は触れてはいけない。
ジェユンはノートの新しい頁に、消された日付だけを小さく書いた。続けて、城北洞、別荘、廃整備工場、公式日程空白、と並べる。線はまだ引かなかった。線を引くには、もう一つ以上の紙が必要だった。
「デシクさん。あなたがここへ来たことを、本社は知っていますか」
「分かりません。ですが、私の古い家に、最近、知らない男が来ました。昔の運行日誌が残っていないかと、管理人に聞いたそうです」
やはり遅くはなかった。だが早すぎもしない。向こうもまだ、この紙がどこへ流れたか確定していない。
ジェユンは日誌を布で包み直した。
「今日は、ここまでです。あなたはまっすぐ帰らないでください。マンシクさんへ連絡します。道を二つ挟みます」
カン・デシクはゆっくり立ち上がった。長い運転生活で体に染みついた動作なのか、椅子を戻す音すら小さかった。
「分かりました」
老人は一度、ソンロクへ頭を下げた。ソンロクは戸惑ったように短く会釈したが、その顔色は戻らなかった。
カン・デシクは裏口へ向かった。だが敷居をまたぐ直前、背を向けたまま立ち止まった。雨樋から落ちる水の音が、急に大きく聞こえた。
「もう一つだけ、言わなければなりません」
ジェユンは包みを抱えたまま顔を上げた。
老人の声は、さらに低くなった。
「消されたその夜、パク・ソンロク運転手も、現場の近くにいました」
空気が止まった。
ソンロクの手が、入口の柱を掴んだ。何かを否定する言葉も、理由を尋ねる声も出なかった。ジェユンはノートの上に置いた鉛筆を握っていたが、指が固まって動かなかった。
消された一行の空白は、古い会長車のものだけではなかった。
父の名前が、その暗い道の端に立っていた。
財閥家の末息子ではなく、財閥家の運転手の息子に転生した
30話 本社が古い記録を探す日
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