「平沢ライン、夜明けまでにどの箱ですか」
ジェユンは受話器を握り直すと、裸電球の下でノートを開いた。雨は窓を叩くというより、部屋ごと水の中へ沈めようとしていた。電話の向こうでは本社物流状況室の男が息を切らし、紙をめくる音を乱暴に響かせていた。
「大田第一部品から平沢。制御基板の箱、七一から八四。通常便は天安インター手前で止まった。代替便も冠水で戻れない」
「テガン側の責任者名」
「物流状況室、イ・ヨンジェ。平沢ライン受領はテガン電子、夜間資材担当チョ・ギョンフン」
「ファクスを第三倉庫食堂へ送ってください。荷番号、責任者名、受領者名、到着希望時刻。電話だけでは動かせません」
「今すぐ送る。頼む、時間がない」
命令の形を作る余裕すらない声だった。ジェユンは「確認したらまたかけます」と告げていったん受話器を置くと、父に目を向けた。
「父さん、外の公衆電話へ行きます」
ソンロクは一瞬だけ息子を見たが、何も聞かずに上着を羽織った。ジョンヒが眠気の残る顔で立ち上がり、台所の棚から小銭入れを出す。
「家の電話はどうするの」
「本社からの連絡用に空けておきます。僕たちの手配は、公衆電話から回します」
自分の口から出た言葉が、前世の秘書室の指示のように冷たく聞こえた。だが今は、誰かを切り捨てるためではない。
ジェユンは古い黒革の手帳をかばんへ入れた。オ・マンシクから受け取った、番号だらけの手帳だった。雨具は薄く、外へ出た瞬間に肩まで濡れた。ソンロクが傘を差しかけたが、風で骨がひしゃげた。
倉庫前の公衆電話ボックスは、蛍光灯が水で滲んでいた。ジェユンは濡れた指で小銭を入れ、まず第三倉庫食堂の番号を押した。
数コール後、スネの荒い声が飛び込んできた。
「こんな雨の夜に、何よ?」
「本社からファクスが行きます。受け取った時刻を伝票裏へ。ミョンスさんには門番日誌に、本社から連絡が来た時刻だけ残してもらってください」
「分かった。あんたは?」
「ここで運転手たちに連絡します」
電話を切り、ジェユンは続けて次の番号を押した。牙山の戻り便、チャン・ヨンシク。相手は寝起きの怒声を上げたが、箱番号と本社責任者名を読むと黙った。
「今の道は水だ。国道四十五号は無理だぞ」
「だから牙山から動かしません。空車で倉庫まで来て、濡れていない小型箱だけ受けてください。そこから南へ回らず、温陽の旧道で天安の手前まで」
「誰に渡す」
「天安のキム・ドンパルさんの車です。路肩ではなく、農協倉庫の屋根の下。時刻を二人で残します」
次に天安へかけた。キム・ドンパルは釜山の夜にも動いた男だった。ぶっきらぼうな声が、雨の雑音を裂いた。
「またお前か」
「今回は平沢です。天安インターは使いません。農協倉庫で牙山便から箱七一から八四を受け、成歓の裏道で平沢外郭へ。水が深ければ無理に入らないでください」
「平沢の手前で詰まる」
「平沢側から一台出します。最後の一キロだけ、地元の車に移します」
「また荷崩れは見ないぞ」
「受けた箱番号だけ見てください」
三本目は平沢だった。手帳の端にある薄い鉛筆の番号。元テガン電子の通勤便を走っていた男の家だった。妻が出て、最初は夫を起こせないと言った。ジェユンは声を落とした。
「ラインが止まれば、明日そちらの工場の臨時職から切られます。車は小さくて構いません。水に沈んでいない生活道路を知っている人が必要です」
しばらくして、低い男の声に代わった。
「平沢のチョ・ギョンフンが受けるのか」
「はい。受領者名もファクスにあります」
「なら行く。だが工場の正門は冠水だ。西門の高台から入れるか確認しろ」
ジェユンは家の電話へ戻り、本社状況室へかけ直した。平沢西門、夜間資材担当、チョ・ギョンフン。男は一度「公式入口ではない」と言いかけ、すぐ飲み込んだ。
「確認する。西門を開ける」
「開門時刻をこちらへ伝えてください。僕たちに西門の連絡先は教えないでください。受領確認だけ、第三倉庫へファクスで」
本社の男が沈黙した。番号を全部よこせと昨日まで言っていた側が、今は番号を知らないまま動かされている。ジェユンはそれでよかった。知りすぎる者を作らないために、わざと不便にしたのだ。
午前一時四十分、第三倉庫食堂からファクス受領の連絡が入った。スネは「字が雨で溶けそうよ」と文句を言いながら、責任者名を読み上げた。ミョンスは門番日誌に本社からの電話、食堂へのファクス、牙山便出発時刻を書いた。
午前三時十二分、牙山のチャン・ヨンシクが農協倉庫へ到着した。箱七一から八四、封緘異常なし。キム・ドンパルが受けた。ドンパルは受話器越しに「旧道の川があふれかけてる。次はこの道を使うな」と怒ったが、車は進んだ。
午前四時二十六分、成歓の先で道が沈み、ドンパルの車が止まったと電話が入った。ジェユンは一瞬だけ目を閉じ、平沢側の男へかけた。
「そこから先は地元の軽トラックで入ってください。ドンパルさんは動かさない。移す場所は、成歓小学校裏の高台。屋根はありません。雨の中で箱を濡らさないため、幌を二枚重ねてください」
「誰が幌を持ってる」
「近くの畳店です。マンシクさんの手帳に番号があります」
ソンロクが横で、濡れた地図の上に鉛筆で線を引いた。父の指は太く、紙はすでに破れかけていた。それでも線は迷わなかった。会長車のために覚えた道ではない。倉庫、食堂、修理所、畳店、農協の軒先。低い場所にしか残らない道だった。
午前五時三十八分、家の電話が鳴り、本社状況室の男の声が飛び込んできた。
「入った。箱七一から八四。濡れなし。受領、チョ・ギョンフン。五時三十八分だ」
ジェユンは復唱した。電話の向こうで、男が長く息を吐いた。誰かが遠くで「ライン、間に合う」と叫ぶ声が聞こえた。
「助かった」
男はそれだけ言った。
ジェユンは「受領確認ファクスを第三倉庫へ」とだけ返し、受話器を置いた。礼は記録にならない。必要なのは、箱番号と時刻と名前だった。
朝になると、倉庫の地面には薄い泥が残り、鉄板屋根からまだ水が落ちていた。食堂の長机には、夜の紙が何枚も乾かされていた。スネは濡れた前掛けを絞りながら、ジェユンを見た。
「眠ったの?」
「少し」
「嘘が下手ね」
ミョンスは門番日誌を閉じ、「本社から礼状でも来るのか」と言った。すぐにファクスが鳴った。紙を取ったスネの顔が、苦く歪む。
そこには、豪雨時非常対応報告と題名が打たれていた。テガン物流およびテガン電子の自主的危機対応により、平沢ライン停止を回避。現場協力者の欄はなく、牙山、天安、平沢の名前も、食堂の電話も、公衆電話ボックスも載っていなかった。
「まあ、こんなもんよね」
スネが吐き捨てた。ミョンスは拳を握ったが、ジェユンは紙を折り畳んだだけだった。
消されたことに腹は立った。だが、それよりはっきりしたものがあった。本社は結局、公式配車では届かない場所で、低い場所の道を必要とした。名前を載せなくても、夜明け前にラインを動かしたのは、倉庫の裏口と家の電話と、雨に濡れた公衆電話だった。
『十分だ』
そう思った。今はまだ、記録されない力でいい。必要とされた事実だけを、こちらの紙に残しておけばいい。
午前十時を少し過ぎた頃、雨は細くなっていた。牙山倉庫前の駐車場の端に、古びた軽自動車が一台、音もなく入ってきた。車体の泥は乾ききらず、フロントガラスの端に古い通行証の跡が残っていた。
降りてきた老人は、色あせた青いジャンパーを着ていた。背は高くないが、運転席から降りる動作に無駄がなかった。彼はジェユンの前まで来ると、厚い運行日誌の束を両手で差し出し、深く頭を下げた。
「カン・デシクです」
赤線で囲まれていた名前が、雨上がりの駐車場に立っていた。
老人は顔を上げずに言った。
「会長別荘の車を、昔、私が運転していました。これは……私が死ぬ前に、誰かへ渡さなければならない紙です」
財閥家の末息子ではなく、財閥家の運転手の息子に転生した
29話 消された運行日誌の空白
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