パク・ソンロク。
感熱紙の上に浮いたその名を、ソンロク自身が見下ろしていた。父の顔から血の気が引くのを、ジェユンは横目で見た。ミョンスは何か言いかけ、スネが唇に指を当てて止めた。
「父さん、これはまだ本社の紙です」
ジェユンは三枚目を折らずに、机の端へ滑らせた。
「本社の紙だから、変えられます。現場の紙を先に作れば」
ソンロクは返事をしなかった。ただ、運行補助簿の表紙に置いた手の節だけが白くなっていた。
翌朝、ジェユンは制服の上に色あせたジャンパーを羽織り、薄い封筒を脇に抱えてソウル行きのバスに乗った。封筒の表には、緊急部品輸送見積書と太い字で書いてある。中身は昨夜、スネの食堂で作った仮の見積だった。箱番号、車種、距離、深夜割増。嘘ではない。ただ、本当の用件ではなかった。
テガン物流本社の状況室は、企画調整室より一階低い場所にあった。電話のベル、ファクスの音、無線の雑音が薄い壁の向こうで重なっている。前世のヒョヌなら、ここへ入るのに名刺一枚で足りた。今のジェユンには、子どもの顔と現場の封筒しかなかった。
「牙山第三倉庫からです。昨夜の緊急部品輸送の見積、イ・ヨンジェさんに渡すようにと」
受付の女は眉をひそめたが、状況室の中から男の声が飛んだ。
「そこ置いとけ! 今、手が離せない!」
ジェユンは深く頭を下げ、扉の内側へ半歩入った。状況室の空気は乾いていた。壁には全国拠点の地図が貼られ、赤いピンがいくつも刺さっている。机の上には配車表、請求予定、未処理伝票、会議日程の紙が山のように積まれていた。
イ・ヨンジェらしき男は電話を肩に挟み、別の紙へ数字を書き込んでいた。
「ベイブリッジ側は午後じゃない。非公開だ。会議室Bは閉めておけ。外部実査じゃなくて、事前協議だと言え」
ジェユンの指先が封筒の角を押さえた。
ベイブリッジ・キャピタル。
名前が出た瞬間、昨夜の構造調整検討文書が頭の中で開いた。外部資本受け入れ前、負債および遅延損害整理。文字だけではなかった。相手がいた。
男が電話を切り、机の山へ手を伸ばす。ジェユンは一歩近づき、封筒を差し出した。
「ここに置けばいいですか」
「そこ、配車担当の机。触るなよ」
「はい」
子どもらしく返事をしながら、ジェユンは指定された机の端に封筒を置いた。そこには会議室使用表が半分だけ見えていた。黒いクリップで留められた紙の二枚目、十一日、十六時、会議室B。出席者欄にハン・ドギョム、企画調整、テガン物流、ベイブリッジ・キャピタル韓国担当とあった。
さらに、紙の隅に鉛筆で薄く数字が書かれていた。
営業損失、三十八億二千万。
ジェユンはまばたきもせず、その数字を頭へ入れた。昨日のファクスにあった損失見込みより大きい。しかも鉛筆だ。会議前に消せる数字。正式帳簿ではなく、相手に見せるために作る幅だった。
『実際の損失じゃない』
彼は封筒から手を離した。
『売る値段を下げるための損失だ』
状況室の男が再び怒鳴った。
「おい、牙山の子。まだいるのか。帰れ」
「はい。受領印は」
「あとで倉庫へ送る!」
受領印は出さない。見積を受け取った記録も残さない。ジェユンはうなずき、廊下へ出た。扉が閉まる寸前、別の声が聞こえた。
「下請け未払いは整理済みにしておけ。実査で聞かれたら、訴訟前の調整中だ」
廊下の蛍光灯が白く揺れた。ジェユンは走らなかった。走れば子どもではなくなる。階段を下り、本館裏の公衆電話まで出てから、ようやく小銭を入れた。
「シン・ジョンホ代表ですか」
受話器の向こうで、年配の男が警戒した息を吐いた。
「誰だ」
「牙山第三倉庫で、未払いの伝票を見た者です。テガン物流が支払いを止めている日と、配車をわざと漏らした日を合わせたいです」
沈黙が長かった。ジェユンは続けた。
「今月十一日、ハン・ドギョムがベイブリッジ・キャピタルと非公開で会います。安く売るために、下請けの未収と遅延を損失に入れています」
「……どこで会う」
「本社会議室B。十六時」
受話器の向こうで紙が擦れる音がした。シン・ジョンホは低く笑った。笑いではなく、喉に引っかかった怒りだった。
「子どもの声だな」
「はい」
「なら、なおさら嫌な話だ。だが、うちももう逃げ場がない」
その日の夕方、ジェユンは牙山駅裏の古い喫茶店でシン・ジョンホに会った。シンは小柄な男だった。袖口の擦り切れた背広を着て、紙袋を膝の上に置いている。テーブルにつくなり、彼は水も飲まずに袋を押し出した。
「未払い代金、三か月分。受領確認はある。支払い予定日もある。だが本社配車が出なかった日を、うちの納品遅延にされた」
ジェユンは袋を開けた。送り状、請求書控え、受領印の写し、通話メモ。紙の端には、何度も折られた跡が残っていた。
「故意の配車漏れは」
「これだ」
シンは別の薄い束を出した。配車依頼を午前に出し、状況室が確認したにもかかわらず、車両番号だけ空欄のまま夕方まで止まった日。夜になって下請け側の遅延として通知された日。どれも、ミョンスが拾った門番日誌の空欄出発と重なる時期だった。
「代表、これを僕に渡したことは誰にも言わないでください」
「言う相手も残ってない」
シンの声はかすれていた。
「先月、不渡りを出した取引先が二つある。どちらもテガンからの支払いが止まった翌週だ。銀行は待たない。テガンは待たせる」
ジェユンは紙をかばんへ入れず、その場で日付だけをノートへ写した。原本はシンに戻す。持ち帰れば奪われる。必要なのは、同じ日付を複数の紙で示すことだった。
夜、第三倉庫の食堂裏に戻ると、マンシクから遅配扱いの日付が届いていた。ミョンスの門番日誌、スネのファクス控え、ソンロクの運行補助簿、シンの未払い資料。ジェユンは四つの束を横に並べた。
日付。
本社配車依頼時刻。
配車確定の有無。
実際の出発。
受領時刻。
支払い保留。
下請け責任通知。
行が増えるほど、偶然は薄くなった。特定の週に配車が遅れ、同じ週に決済が止まり、翌週には損失見込みが増えている。遅延は現場の能力不足ではなかった。本社が作った遅延だった。
スネが湯飲みを置いた。
「これ、見た人は分かるの」
「分かる人には、すぐ分かります」
「分からない人には」
「ただの現場の愚痴に見えます」
ミョンスが紙をのぞき込む。
「じゃあ、分かる人に見せるんだな」
ジェユンはうなずいた。ベイブリッジの韓国担当が数字を見る人間なら、公式帳簿より先に現場記録のズレを見る。五分で十分だった。
最後にシン・ジョンホの紙袋の底から、まだ見ていない一枚が出てきた。薄い一覧表だった。表題はない。末尾に小さく、決済遅延後、手形不渡り発生先、とだけある。
一行目に、はっきりと記されていた。
忠南牙山第三倉庫。
ジェユンの手が止まった。倉庫そのものが、取引先として不渡りへ追い込まれる予定の表に入っている。人員整理ではない。拠点ごと信用を落とし、切り離し、安値で外へ出す。その過程で、古い運行記録も、父の名前も、同じ箱に入れて処分するつもりだった。
ジェユンは手の中の表をもう一度見下ろした。この表がドギョムの手に入ったとき、本社が次にどう動くかを計算するのに長い時間はかからなかった。証拠を消すために来る。紙ではなく、紙を持つ人間へ向かって。
パク・ギチョルが消された記録をなぜあれほど執拗に探しているのか、その理由が一本の線でつながり始めていた。安値売却の前に消したいのは、物流の赤字ではない。二十年前の夜と、今切り捨てる倉庫が同じ表に並ぶことだった。
財閥家の末息子ではなく、財閥家の運転手の息子に転生した
33話 食堂裏の証拠会議
次の話