ソウル家庭裁判所の調停室は、午後三時を過ぎても乾いた紙の匂いが抜けなかった。長机の片側で妻が泣き、反対側には夫の代理人だけが座っていた。本人は来なかった。海外出張だと書面にはあったが、イ・ナギョンはその理由を一度も信じていなかった。
「財産分与の対象は、婚姻中に形成された預金、退職金見込額、そして賃貸保証金の増加分です。養育費は相手方の収入資料を基準に、こちらの請求額で再提示します」
彼女の声は低く、余計な熱を含まなかった。三十三歳。離婚専門弁護士として十年近く、壊れた愛の後始末ばかり見てきたせいで、調停室の空気がどれほど湿っていても、彼女の手元だけはいつも乾いていた。
依頼人の女性はハンカチを握りしめたまま、ナギョンを見た。
「先生、あの人は本当に、どうして急に家を出たんでしょうか」
向かいの代理人が気まずそうに視線を落とした。調停委員もペンを止めた。
「今さら理由を聞いても、判決には関係ありませんか」
「関係ありません」
ナギョンは書類を一枚めくり、淡々と答えた。
「慰謝料の判断に必要なのは、行為と証拠です。相手がどんな言葉で自分を正当化するかではありません」
「でも、私は……捨てられた理由くらい、知りたいんです」
その声がかすれた瞬間、ナギョンの指がわずかに止まった。依頼人の目には、怒りよりも屈辱が濃かった。昨日まで夫だった人間が、ある朝突然、家具も会話も残したまま消える。残された側は、判決文より先に一つの説明を欲しがる。なぜ自分だったのか。なぜ最後に何も言わなかったのか。
ナギョンはその問いを、数えきれないほど聞いてきた。
浮気。借金。母親との同居問題。子どもを望むか望まないか。性格の不一致という便利な箱に押し込まれた、もっと小さくて醜い疲労。人は愛を終える時、たいてい自分に都合のいい物語を作る。残された者はその物語の外側で、何度も同じ場面を巻き戻す。
「理由を知ったところで、役に立つとは限りません」
ナギョンは書類を閉じた。
「あなたが今日ここで守るべきものは、相手の本音ではなく、これからの生活です」
依頼人は唇を噛み、うなずいた。納得したわけではない。ただ、泣く場所を一つ後ろへずらしただけだった。
調停は予定より二十分早く終わった。相手方代理人が次回期日を確認し、依頼人が何度も頭を下げる。ナギョンはエレベーターまで見送らず、廊下の端で短く挨拶を済ませた。優しさを見せるほど、依頼人はまた理由を求める。理由は、法廷で最も使いにくい刃物だった。
事務所へ戻る車の中で、ナギョンは窓に映る自分の顔を見た。きちんと結んだ髪、薄い口紅、疲れを隠すための端正な表情。誰かの別れを整理するには十分な顔だった。
自分の別れを説明するには、十年経っても足りなかった。
チョン・ウジン。
その名前は、ナギョンの中でいつも古い封筒のように閉じられていた。開ければ紙が裂けると知っているから、引き出しの奥に押し込み、上から仕事を積んだ。二十三歳の時、彼は最後の待ち合わせ場所に現れなかった。電話にも出ず、メッセージにも返信せず、共通の知人の前からも消えた。
最後に彼が送ってきたのは、短い約束だけだった。
ソンブク洞の旧郵便局。夜九時。必ず行く。
ナギョンはその日、古い赤煉瓦の建物の前で夜明けまで待った。冬の終わりの雨が止まず、始発バスのライトが路地を白く照らした時、彼女はようやく立ち上がった。足先の感覚はなく、携帯電話の画面には何の通知もなかった。
それから十年、彼女はその出来事に一つの名前だけを与えた。
捨てられた。
それで十分だった。裏切りを複雑に解釈し始めると、結局、自分がまだ待っていることを認めなければならなくなる。
午後六時を少し過ぎて、ナギョンが事務所に戻ると、後輩のミンソがコピー機の前で両腕いっぱいの書類を抱えていた。まだ新人の匂いが抜けない彼女は、ナギョンを見るなり小走りで近づいてきた。
「先生、ソンブク洞の再開発関連資料です。共有名義の補償金で揉めている相談、明日の午前に入っています」
「担当はチョ弁護士じゃなかった?」
「先生の依頼人と親族関係が重なっていて、利益相反の確認だけお願いしたいそうです。あと、これ、現場写真も入ってます」
ミンソは透明ファイルを机の上へ置いた。ナギョンはコートも脱がずに椅子へ座り、最初のページをめくった。区役所の告知、土地台帳、所有者一覧、補償協議の経過。ありふれた再開発の匂いだった。誰かの生活が数字に変わり、古い建物が取り壊し予定日と面積で呼ばれる。
「急ぎ?」
「三日後に一部撤去が始まるそうです。旧郵便局の周辺から」
紙をめくる音が止まった。
「どこ?」
「ソンブク洞です。昔の郵便局、わりと有名だったみたいですよ。赤煉瓦の」
ミンソは何も知らない顔で言った。ナギョンは視線を資料へ戻したが、指先だけが一瞬、冷えた。ソンブク洞。旧郵便局。三日後に撤去。
十年のあいだ、彼女はその場所へ一度も行かなかった。通りの名前を聞いただけで避け、地図アプリで偶然近くを表示してもすぐ閉じた。逃げていたというより、存在しないことにしていた。裁判所で他人に言い続けてきた言葉を、自分には使えなかったのだ。
理由を知ったところで、役には立たない。
ミンソが不思議そうに首を傾げた。
「先生?」
「確認する」
ナギョンは短く答え、現場写真のページを開いた。
画面ではなく、印刷された写真だった。再開発現場の担当者が日付入りで撮ったらしく、色が少し荒い。錆びたシャッター、割れた窓ガラス、壁に貼られた取り壊し告知。赤煉瓦の外壁は記憶よりも黒ずみ、看板の文字は半分剥がれていた。
それでも、一目でわかった。
胸の奥に、濡れた夜の冷たさが戻ってきた。あの日、ナギョンはまさにその階段の下に立っていた。雨粒が看板の端から落ち、街灯の光が水たまりで砕けていた。誰かが角を曲がって現れるたびに、心臓が跳ねる準備をしていた。結局、一度も跳ねなかった。
「古い建物なので、権利関係が少し面倒みたいです。写真の裏に番号が振ってあって……先生、顔色悪いですけど」
「平気」
ナギョンは写真をファイルへ戻そうとした。もう十分だった。建物が壊れるなら、壊れればいい。十年前に終わった待ち合わせ場所が消えるだけだ。記念碑でも墓でもない。ただの郵便局だ。
「この案件、明日はチョ弁護士に戻して。私は関わらない」
「え、でも先生、利益相反の確認だけでも」
「必要なら所長に回して」
声が思ったより硬くなった。ミンソは口を閉じ、すぐにうなずいた。
「わかりました。じゃあ資料は置いていきます。念のため、権利者一覧だけ確認していただければ」
「ミンソ」
「はい」
「置かなくていい」
ナギョンはファイルを押し返した。爪の先が透明な表紙に当たって、小さな音を立てた。これ以上この場所を机の上に置いておきたくなかった。ミンソは困ったように資料を抱え直したが、その拍子に中の写真が一枚、するりと滑り落ちた。
床へ落ちた写真は、裏返らなかった。
旧郵便局の正面を斜めから写した一枚だった。取り壊し告知の紙が壁の右側に貼られ、赤い文字で撤去予定日が記されている。その下の余白に、誰かが黒いペンで何かを書いていた。現場担当者のメモだろうと、ナギョンは最初そう思った。
だが、視線がそこに触れた瞬間、体が動かなくなった。
文字は少しかすれていた。雨か湿気でにじみ、線の端が崩れている。それでも、見間違えるはずがなかった。十年間、呼ばないようにしてきた名前だからこそ、目は勝手にその形を拾った。
撤去予定日、五月二十九日。
その真下に、はっきりと残されていた。
チョン・ウジン。
ナギョンは息を忘れた。胸の奥で、とうに閉じたはずの古い封筒が、音もなく裂け始めていた。
受取人、10年前の私へ。どうか一人で消えようとする彼の手を離さないで
2話 旧郵便局の黒い郵便受け
次の話