発電機の唸りが、マローンの親指の下でさらに低く聞こえる。
ドギョムは作業場の入口で止まる。手の中のタイマーコントローラーでは、赤い数字が四十三分台へ落ちている。だが、その画面はもう全てではない。作業場の端、発電機の横には、ヴィンス・マローンが自ら立っていた。その手には爆薬コントローラーの補助端末が握られている。
作業場の奥、金網の列には、ジョアンとアルマ、リハビリセンターの被害者二人が膝をついたまま縛られている。四人とも口に布を噛まされ、手首から伸びる鉱山用の鎖が、背後の坑木へ巻かれている。鎖だけが新しく、油を含んだ黒い光を返す。
ジョアンの右手のガーゼは乾いた血で固まり、指先は手の形を保つだけで痛みを訴えている。アルマの裸足は粉塵の床に押しつけられ、肩が小刻みに震えている。若い男は布を噛んだまま息だけで何かを言おうとし、作業服の女は目を閉じ、鎖が鳴らないよう体を固めている。
ドギョムが影の端から一歩踏み出すと、マローンは背後を見ずにわかったようにゆっくり振り返る。
「三人は応答なし、カードの写しはもう一枚外へ出た。よそ者ひとりに、ずいぶん場所を譲りすぎたな」
年齢の読めない顔に焦りはない。頬の肉は薄く、目だけが冷たい。黒い外套の裾は粉塵を吸い、濡れた革の匂いを作業場へ混ぜている。
ドギョムは答えず、痛む肋骨を一度押さえて距離を詰める。
左肋骨の内側に、白い痛みが走る。ラウクに打たれた場所が、呼吸のたびに骨の奥で軋む。ドギョムは左脇を一度だけ押さえ、すぐ手を離す。痛みを隠すためではない。痛みがある位置を、次の動きから外すためだ。
三番の代行は止まった。第一と二番と二つ目は沈黙している。だが最奥、補助、手動連動の表示はまだ消えていない。マローンの補助端末が、そのどれを握っているかを読むには距離が足りない。
マローンは補助端末を胸の高さへ掲げて嘲る。
「第一も二番も、よくやった。二つ目まで触ったなら上出来だ。だが、お前は全部の線を読めていない。俺が指を一本でも離せば、D-3の最奥が崩れる。お前の足元まで一緒にな」
親指は赤いボタンの縁に置かれ、人差し指は横の細いレバーにかかっている。
作業場の天井の隅で補助灯が点滅し、アルマの肩が恐怖で震える。布越しに漏れた息が、泣き声になる前に喉へ戻る。ジョアンはアルマを見ず、ドギョムを見る。目だけで言っている。近づくな、ではない。まだ見る場所がある、という目だ。
ドギョムは視線を動かす。マローンの足元。端末のケーブル。発電機の補助盤。坑木の列。四人の鎖。金網の留め具。床に落ちた布片。白い粉の袋。爆薬用の黄色いタグ。
どれもあり得る。だがジョアンの目はそこではない。
ジョアンの左手。
彼女は鎖で引かれた手首を膝の上に置いている。ドギョムは足を止めない。もう一歩だけ前へ出る。マローンとの距離は八歩。補助端末へ届くには遠い。だが紙の上の字を見るには、ぎりぎり届く。
ドギョムはジョアンの手のひらの上、乾いた血とガーゼの間に挟まった小さなメモ紙を見る。最初は包帯の切れ端に見える。だが紙の角に、黒いインクがある。
そこに書かれていたのは識別番号ではなく、七行の人名だった。
一行目。アルマ。
二行目。ジョアン・リバース。
三行目。トミー・グレンジャー。
四行目。ルーファスの弟。
五行目と六行目にも、掲示板の行方不明者ビラで見た顔と重なる名前があり、七行目には、ミゲルの母の名があった。
識別番号ではない。町が消す前の名だ。ジョアンはまだ、番号を名前へ戻す作業を続けていた。爪を剥がされ、鎖につながれ、布を噛まされても、最後に紙片を掌へ隠していた。
マローンの目が細くなる。
「読めたか」
ドギョムは答えない。
「読めたならわかるだろう。そいつらはもう使い終わった名前だ。帳簿から消し、車から降ろし、穴へ入れた。町が泣いたところで、金は戻らない。証拠が外へ出ても、次は別の郡で別の名前を使う。お前がやっているのは、濡れた壁を殴っているだけだ」
ドギョムはジョアンの掌の紙片からゆっくりと視線を上げる。
マローンは補助端末を掲げたまま、ドギョムが絶望を顔に浮かべるのを待つように薄く笑っている。だが、ドギョムの目に浮かんだのは絶望ではなかった。彼は静かに息を吐き、痛む肋骨の奥で何かを決定した。
法が遅すぎる町で、今日倒すべき悪党を倒す男
107話 消された名を呼ぶ坑道
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