ミゲルの手が止まったその朝、録れなかった声は、町のどこかで別の耳に届いていた。
ドギョムはそれをまだ知らない。学校裏の搬入口から離れ、通りを二本迂回してヘナズ・ダイナーの裏口へ戻る。雨は上がりきらず、屋根の端から落ちる水が、ゴミ箱のふたを一定の間隔で叩いている。ヘナは開店前の厨房で、鉄板の火をまだ入れずに待っていた。
「ミゲルは」
「放送室に入った」
「録れますか」
「これからだ」
それ以上は言わない。ドギョムは冷凍倉庫の扉を開ける。白い冷気がまた足元へ流れ出す。奥の棚には、昨夜押し込んだ牛肉パティの箱が並んでいる。表の段だけ見れば、古い在庫が眠っているだけだ。
彼は手袋を替え、箱を一つずつ動かす。B-L-17ともう一箱は、昨夜よりさらに奥へ押し込む必要があった。破れた角から粉が出ていないか、光を当てずに指の影で見る。布テープは浮いていない。だが、安心はしない。
「ビニールを」
ヘナは黙って厚手の透明袋を二枚出す。業務用の冷凍肉を包むためのものだ。ドギョムは薬品箱を一つずつ袋へ入れ、口を折ってテープで留める。さらに二枚目で包む。角を丸めるように押さえ、箱の形が少しでも見えにくくなるようにする。
輸送キー一組は小さな油紙に包み、古い牛肉パティの箱の底へ滑り込ませる。冷凍焼けした肉の匂いが、金属の匂いを薄く覆う。ドギョムは棚の最奥、賞味期限の印字が半分消えたパティ箱の後ろへ、二つの包みを横向きに押し込んだ。
「ここを開けられたら終わりです」
ヘナは扉の内側を見ている。
「開けさせない」
「それは答えじゃないです」
「なら、開ける理由をなくす」
ドギョムは一番手前に安い冷凍フライと鶏肉の箱を戻し、棚の縁の霜を指でならす。動かした痕を消す。床に落ちた小さな氷片も拾い、排水溝へ流した。
午前七時、食堂はいつもの顔で開く。焦げたコーヒー、グリドルの脂、濡れた作業着の匂い。客は少ないが、誰もが普段より長くラジオの方を見ないようにしている。昨夜、峡谷でブラスライン二号車が止まった噂は、もう町の皿の上に乗っている。だが口に出す者はいない。
ヘナはカウンターの端で布巾を畳む。四角く折り、さらに半分にして、同じ幅で積む。左手首の火傷の跡が一度だけ見え、すぐ袖の影へ消える。客が出入りするたび、彼女の目は扉の金具、腰のベルト、靴底の泥を短く拾う。
ドギョムは厨房奥の棚の陰にいる。見えるのはカウンターの下半分と、入口のガラスに映る通りだけだ。外では保安官事務所の車が二度流した。止まらない。止まらない車ほど、あとで戻ってくる。
九時過ぎ、星形バッジをつけた若い代理が一人で入ってくる。客の話し声は半拍遅れて細くなる。ヘナは手を止めない。布巾を畳み、コーヒーポットを戻し、レジの下から茶色い封筒を取り出す。その動きは昨日と同じに見える。
だが、ドギョムには違いが見える。足音が歩道の水たまりを踏んだ瞬間、ヘナの指はもう封筒の端を押さえていた。ベルが鳴る前に、彼女は相手が封筒を取りに来たと知っていた。
「今日の分」
代理は眠そうな声で言う。目だけは厨房奥へ一度走った。
「置いてあります」
ヘナは低く返す。封筒を渡す手は揺れない。代理は中を数えず、重さだけを確かめる。以前ならここで薄いだの遅いだのと一言置いた。今日は何も言わない。ただ、カウンターの布巾の山を見て、次に床を見る。
「冷凍庫、まだ古いままか」
ヘナはコーヒーカップを拭く。
「見ればわかります」
「故障すると困るだろ」
「町は困らないでしょう」
代理の口の端が動く。笑うには足りない。彼は封筒を胸ポケットへ入れ、出ていく。扉のベルが鳴り終わるまで、ヘナは布巾から手を離さなかった。
正午、ラジオがいつものカントリー曲を途中で切る。町の短いニュースが入ると、客のフォークが二本止まる。
「今朝、カジノ駐車場北端で、ブラスライン物流の空トラック一台が放置されているのが発見されました。保安官事務所は機械故障による一時停車後の移動と見ており、住民に通常どおりの通行を呼びかけています」
ニュースはそれだけで終わる。曲が戻る。だが、戻ったのは音だけだ。客の食べる速度は少し遅くなり、誰もカジノの方角を見ない。
厨房奥で、ドギョムはラジオの横に置いた紙片へ時刻を書く。空トラック。カジノ駐車場北端。箱の行方はまだ出ていない。つまり、向こうは公には何も言えない。輸送していたものを説明できないからだ。
午後二時すぎ、保安官事務所の会議室では、説明できないものだけが机に積まれていた。
ラウクは壁の地図の前に立っている。皺のないカーキ色のシャツ。磨きすぎた星形バッジ。机にはディーゼルの領収書、カジノ駐車場の監視カメラ映像を焼いたディスク、ブラスラインの通行記録、夜間便の運転手二人の報告書が並ぶ。
「正式には、箱二つが消えた」
若い代理が紙を読むような声で言う。
ラウクは返事をしない。画面にはカジノ駐車場の隅で止まる空のトラックが映っている。別の画面には、峡谷迂回路の荒い映像がある。雨粒とノイズで、車の形はほとんど潰れている。だが、止まった時間だけは消えない。
「外郭道路の検問を一段上げろ」
ラウクは低く言う。
若い代理が書く。
「峡谷迂回路の進入路二か所。今日中にカメラを付けろ。古い電柱でも標識でもいい。映ればいい」
「州の許可は」
「郡有地の安全確認だ。紙はあとで作る」
ラウクはディーゼル領収書の束を指でずらす。解体屋、カジノ、ブラスライン整備場、外郭の小さなスタンド。数字は嘘をつかない。ただ、嘘をつく人間が数字の列を選ぶだけだ。
「三人は」
「ケイレブがロビーを疑っています。ロビーはサムの名前を出しました。サムは、何も知らないと言っています」
「知らないと言う者ほど、知っていることを数えている」
ラウクはカジノ映像を止める。空トラックの影が、画面の端で荒く固まる。
「内部の三人が揺れた。その揺れに手を入れた奴を探せ」
無線越しのその声は短く、冷えていた。
夕方前、その一文はヘナズ・ダイナーの厨房下の受信機にも落ちた。音は小さかったが、ヘナの耳は拾った。彼女は封筒を受け取るために出していた布巾の山を少しずらし、その下へ今日の封筒の控えを滑り込ませる。
ドギョムは奥から見ている。ヘナは何も言わない。だが、カウンター下の小さなノートを開き、鉛筆を持つ。これまで彼女が書いてきたのは、封筒の厚み、時刻、受け取った代理の顔だけだった。
今日、初めて言葉を書く。
内部の三人が揺れた。その揺れに手を入れた奴を探せ。
書き終えた瞬間、入口のベルが鳴った。さっきの若い代理ではない。別の足音だ。重く、急いでいない。ヘナがノートを布巾の下へ戻すより早く、男の声がカウンター越しに落ちる。
「冷凍設備の点検だ。今すぐ奥を見せてもらう」
法が遅すぎる町で、今日倒すべき悪党を倒す男
36話 ミゲルの録音カセット
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