代理の懐中電灯は、その一つの足跡からしばらく動かない。
ルーファスは油の染みた布を握ったまま、何も言わない。言葉を足せば、足跡にも意味が足される。ドギョムはコンテナの影で息を細くし、土の上の形を読む。つま先が細い。かかとは浅い。新しいが、重くない。仕事靴の癖ではなく、誰かが裏庭の端をすり抜けた跡だ。
「撮れ」
代理が言う。
カメラのシャッターがもう一度鳴る。今度はタイヤ跡でもオイル缶でもない。見落とした一つの靴底が、雨の夜を越えて紙の上に残される。
「誰か客を入れたか」
「この雨でか。廃車を買いに来る物好きなら、そっちで探せ」
代理はルーファスの顔を照らす。光の中で、ルーファスの皺は動かない。やがて二人は写真を確認し、車へ戻る。赤い尾灯が未舗装路の向こうへ消えるまで、ドギョムは影から出ない。
ルーファスが小さく息を吐く。
「今のは、あんたのか」
「違う」
「俺のでもない」
「知ってる」
ドギョムは足跡のあった土へ近づくが、もう触らない。触れば、次の写真で変化が残る。彼はその形だけを目に焼きつけ、裏口ではなくフェンスの裂け目から解体屋を出る。町へ戻るころ、雨は止みかけ、東の空が錆びた鉄板のように明るくなり始めていた。
翌朝、郡の地元放送はいつもより早く、町の食料品店、ガソリンスタンド、ヘナズ・ダイナーの古いテレビへ同じ映像を流す。
画面の左には写真の代わりに、特徴だけが太い白文字で並ぶ。背が高い。黒髪。アジア系。軍用外套。古いダッフルバッグ。軍用ブーツ。氏名不詳の流れ者。暴力犯罪の前歴あり。保安官代理二名に重傷を負わせ、護送中に逃走。さらにブラスラインの夜間輸送車両を狙った疑い。
顔はない。だが町の誰もが、その空白へ同じ顔を入れるよう作られている。
アナウンサーは硬い声で読む。
「ブラスヒルのリハビリ事業を妨害する外部勢力について、町当局は今朝、住民へ警戒を呼びかけました。対象者は武装している可能性があり、接触せず、ただちに保安官事務所へ通報してください」
ヘナズ・ダイナーの客席は半分も埋まっていない。常連の老人はコーヒーを飲み残し、画面に特徴が出た瞬間に立ち上がる。作業員二人は注文前に帽子をかぶり直し、誰とも目を合わせず出ていく。ヘナはカウンターの内側で皿を拭き続ける。左手首の火傷跡が、白い布巾の上で細く硬く見える。
屋根裏では、アルマが毛布を握りしめたまま小型テレビを見ている。画面の光が痩せた頬を青く照らす。ドギョムは梯子の横に座り、音ではなく字幕と、画面下を流れる通報番号を見ている。
「あなたのことです」
アルマの声はかすれている。
「そうだ」
「ここにいたら、ヘナさんも、ミゲルも……」
その続きは言えない。言わなくても、全員がわかっている。テレビでは画面が市庁舎前へ切り替わる。濡れた石段の上に、町長エヴァン・プライスが立っている。紺のスーツ、星条旗のピン、整えた髪。背後にはリハビリ事業の横断幕が、雨上がりの空気に重く貼りついている。
プライスはカメラを正面から見る。
「ブラスヒルは、外から持ち込まれた暴力と脅しに屈しません。私たちは更生と回復を信じる町です。その歩みを、正体を隠した流れ者と、その背後にいる者たちに壊させるわけにはいきません」
声は穏やかだ。だが言葉は、道路に置かれるバリケードのように硬い。
「必要であれば、町への出入りを一時的に制限します。郡道八十一号線、カジノシャトル進入路、貨物整備場方面の道路について、保安官事務所と協議のうえ、安全確保のための措置を取ります。住民の皆さんは噂に惑わされず、通常どおりの生活を続けてください」
通常どおり、と言った瞬間、食堂前をパトカーが一台ゆっくり通る。屋根裏の床板がわずかに震える。アルマの指がドギョムの袖をつかむ。
同じ時刻、保安官事務所の会議室では、ラウクが解体屋で回収した写真を一枚ずつ地図の横へ並べている。
タイヤ跡。油缶。フェンス側。雨樋の届かない土。
若い代理が言う。
「軍用ブーツ跡は潰れてます。廃トラックを動かした痕で説明できます」
ラウクは答えない。写真を一枚取り上げる。つま先の細い、古い払い下げ靴底の跡。彼の指先がそこで止まる。
「これは違う」
「よそ者の靴では」
「つま先が細い。沈みが浅い。軍用ブーツじゃない。ルーファスの作業靴でもない。お前らの制式靴でもない」
ラウクは写真の角を黒いピンで刺し、地図の解体屋の脇へ留める。前夜、引き出しにしまった線を、今度は隠さない。別人の足跡として、町の上に出す。
「外郭を洗え。廃モーテル、空き倉庫、人の入らない公共施設。古い払い下げ靴を履く奴が出入りできて、よそ者が一晩息を潜められる場所だ」
「ヘナズ・ダイナーは」
「見る。だが先に周りを閉じる。巣を焼く前に、逃げ道を数えろ」
若い代理が地図へ赤い線を引く。解体屋から廃モーテルへ。廃倉庫へ。旧ボウリング場へ。線はまだ荒い。だが一本ずつ、町の外郭を締めていく。
屋根裏で、ドギョムはテレビを消す。
アルマの手はまだ袖をつかんでいる。彼女の爪は短く割れ、指先に力が入りすぎて白くなっている。
「行かないで」
その言葉は命令ではない。残された人間が、また誰かを失う前に漏らす息だった。
ドギョムはその手を見下ろす。彼がここにいるかぎり、屋根裏の床下も、ヘナのカウンターも、ミゲルの学校机も、同じ標的の中に入る。プライスの放送は町へ向けた言葉ではない。彼を匿った者を、住民の目で囲ませるための号令だ。
「ここにいれば、全員が一つの部屋に入る」
「でも、外は」
「外なら、俺だけを見る」
アルマは首を振る。だが手の力は少しずつ抜ける。ドギョムは指を一本ずつほどく。乱暴ではない。だが止まらない。彼はダッフルバッグを肩にかけ、梯子へ足を下ろす。
下の厨房では、ヘナが裏口の鎖を外している。何も聞かない。聞けば止める言葉を探してしまうからだ。彼女は小さな紙袋を差し出す。缶詰二つ、包帯、濡れないよう包んだカセット一本。
「ミゲルのです。昨日の残り」
「預かる」
「戻る場所は」
「今は言わない」
ヘナの目が一瞬だけ細くなる。怒りではない。彼が正しいからではなく、正しくないと知っていても他に道がないとわかる目だ。
ドギョムは裏口から外へ出る。雨は上がっている。路地の水たまりに、低い空と電線が揺れている。表通りへは出ない。だが角を曲がる前、彼は一度だけ食堂前の道路を見る。
昨日まで一台だった保安官事務所のパトカーが、二台になっている。
新しく増えた車の助手席で、若い代理が無線機を口元へ上げる。視線は食堂の屋根ではなく、裏路地の出口を向いている。ドギョムが足を止めた瞬間、その視線がこちらへ動く。
無線の赤いランプが、朝の薄い光の中で点いた。
法が遅すぎる町で、今日倒すべき悪党を倒す男
43話 名指しされた七号室の夜
次の話