黒い印は、雨音の下で乾いた傷のように残った。
ドギョムは鉛筆を置かず、その印から三本の線を引く。閉鎖されたボウリング場のカウンターは、もうレーンの受付ではなく町の腹を開く手術台になっている。観光案内図、郡史のコピー、カジノシャトルの経路表、ルーファスの油じみた控え、ミゲルの時刻メモが重なり、薄茶の平屋だけが中央で小さく沈んでいた。
「道は三つだ」
声に出すと、ヘナとミゲルとルーファスの視線が同じ場所へ集まる。
ドギョムは一番遠い線を指した。峡谷の迂回路から回り、貨物整備場の裏へ抜ける道。距離はあるが、車の流れに紛れられる。ただし雨が強まれば泥で足を取られ、戻りに時間を食う。
二本目はカジノシャトル停留所の脇を通る路地だった。定刻にシャトルが来れば、ライトとエンジン音が壁になる。だが停留所には必ず誰かの目がある。バスを待つ客、運転手、カジノの警備員、そして保安官代理の顔見知り。
三本目は、ルーファスの解体屋の裏庭を横切る最短距離だった。錆びた車体とフェンスの影を抜ければ、旧車両登録事務所の南壁まで七分。換気口を外す時間を入れても、北壁の巡回が戻る前に中へ入れる。
ルーファスは短く息を吐く。
「俺の庭を通れば早い。だが見つかれば、俺の弟の図面も、俺の首も一緒に吊られる」
「だから最短だ」
ドギョムは線の端に小さく数字を書く。七分。換気口二分。資料室内、最大で十数分。戻りも同じ道なら、まだ帳尻は合う。
ミゲルは添え木を巻いた指でカセットを押さえたまま、青い顔で図面を見る。
「一時間に一度なら、いけます」
「一時間に一度ならな」
ドギョムの返事に、少年の喉が動いた。
同じ夜、保安官事務所の会議室でも地図が広げられていた。ラウクは壁の郡地図へ新しいピンを刺す。SUNCREST廃モーテル七号室。解体屋の裏庭。シャッター脇。ピンは赤ではなく黒だった。
若い代理が少し身を乗り出す。
「解体屋をもう一度ですか」
ラウクは答えず、定規を置く。七号室から解体屋の裏庭を結んだ直線が、旧車両登録事務所の薄茶の四角を正確に貫いた。彼はその四角に銀色のピンを押し込む。
「次はここだ」
会議室の空気が静まる。
「市庁舎資料室ですか」
「名前はそうだ。実物は旧車両登録事務所にある。あの男は名前より実物を見る」
ラウクは短い爪で地図を叩く。北壁巡回の記録が置かれた紙を横へ滑らせ、声をさらに冷やした。
「夜間巡回を一時間に二度へ増やせ。北壁だけでいい。南まで回るな」
若い代理が一瞬だけ迷う。
「南を見ないんですか」
「見ない。見ていると思わせる場所は北で足りる。南を本気で守れば、そこに何があるか教えることになる」
ラウクは解体屋の裏庭へもう一本のピンを刺した。
「シャッター脇に車を一台置け。ライトは消す。無線は短く。巡回変更は紙に残すな。口頭で流せ」
指示はすぐ無線へ乗り、さらに夜のどこかでカセットの磁気に薄く焼きついた。
夜明け前、ミゲルがボウリング場の非常口を叩いた。合図は二回、間を置いて一回。ヘナが内側から鍵を外すと、少年は濡れたジャケットの下からカセットを出した。息が荒い。指の添え木の上に、新しい泥が付いている。
「拾いました。放送室の受信機です。仕掛けておいたテープに、短く入った」
ドギョムはカセットを受け取り、小型プレーヤーへ入れる。ノイズが走り、ラウクの声ではない代理の声が出た。旧車両登録、巡回変更。二十二時から一時間二回。解体屋シャッター脇、一台待機。北壁確認のみ。
ルーファスの顔から血の気が引く。
「俺の裏庭が読まれた」
「読ませた」
ドギョムはテープを止める。怒りはない。読み返された盤面を見ているだけの目だった。
ヘナが低く聞く。
「最短は使えませんね」
「塞がれた」
ドギョムは三本目の線に横線を引く。次に、カジノシャトル停留所の脇の路地へ鉛筆を戻した。停留所の屋根、掲示板、カジノの送迎時刻、古い電話ボックス、路地の曲がり角。線が南壁へ斜めに滑る。
「ここに変える」
ミゲルが眉を寄せる。
「人がいます」
「人がいるから、音が消える。シャトルの到着中に路地へ入る。戻りは、次の出発で出る」
「資料室の中にいる時間は」
「減る」
ヘナはカウンターの下から黒いノートを取り出した。空のメニュー表紙の内側に隠していた封筒記録だ。代理の顔、曜日、時刻、封筒の厚み、持っていく手。紙の端には油じみではなく、何度も指で押さえた跡がある。
「明日だけ、食堂へ来る時間が遅い」
彼女は一行を指す。水曜。若い代理。通常二十一時二十分。だが横に小さく、二十一時三十分予定、と書かれていた。
「昨日、封筒を取りに来た代理が言いました。明日は町長側の打ち合わせで、食堂へ寄るのが十分遅れると。本人はただの愚痴のつもりでした」
ドギョムはその一行を見る。保安官代理が食堂へ寄るのが遅れる十分。その時間、通りの巡回車両はヘナズ・ダイナーの前で止まらない。封筒を待つ動きが遅れ、カジノシャトル停留所脇の路地へ目が戻るのも遅れる。
「十分」
ミゲルが呟く。
ドギョムは旧車両登録事務所の中に小さな四角を描く。資料室。鉄箱。廃鉱安全資料。鉱山作業図面一式。
「中にいられるすべての時間だ」
ルーファスが顎を引く。
「十分で図面を探せるのか」
「探すんじゃない。箱を開ける」
ドギョムは必要な動作だけを並べる。換気口を外す。内部へ入る。資料室の鍵を見る。箱三つ。ラベルを読む。図面束を抜く。戻す余裕はない。持ち出す。換気口から出る。シャトルのエンジン音に乗せて路地を抜ける。
ヘナはノートを閉じる。
「食堂には来ます。遅れても、必ず。封筒を空にすると疑われる」
「普段どおりに渡せ」
「あなたが中にいる間に?」
「そうだ」
ヘナの目が一瞬だけ鋭くなる。だが反論はしない。彼女は長く客と扉を同時に見てきた女の顔で、ただうなずいた。
夜がさらに深くなると、ボウリング場の中は雨とテープの巻き戻る音だけになった。ルーファスは裏庭の待機車を見分けるため、シャッター脇の影の癖を説明して帰った。ミゲルはカセットを一本だけ残し、もう一本を胸に入れた。
帰り際、少年は立ち止まる。
「母さんの番号、まだ持ってますか」
ドギョムは短く答える。
「持ってる」
「明日も?」
「持っていく」
ミゲルはそれ以上聞かない。聞けば、なぜ危険な場所へ母の番号を持っていくのかを知ってしまうからだ。彼は壊れた指を胸の前で押さえ、雨の中へ消える。
ドギョムはカウンターの上を片づける。ジョアンの血がついたカメラストラップの切れ端を、紙に包まずそのまま取る。乾いた血は黒く固まり、REUTERS-FREELANCEの文字は半分だけ残っている。次に、ミゲルの母の五桁の識別番号が書かれた小さなメモを取り出す。
二つをシャツの内側へ入れる。認識票の横ではない。心臓の上に当たる場所へ、布と紙が重なる。
ヘナがそれを見ていた。
「お守りには見えません」
「お守りじゃない」
「じゃあ何ですか」
ドギョムはシャツのボタンを一つ留める。
「俺が何を取りに行くか、忘れないためだ」
ヘナは返事をしない。古い火傷のある手で、カウンターに残った鉛筆を拾い、折れた芯を紙の端で拭う。
外では、遠くの通りを巡回車のライトが一度だけ横切った。旧車両登録事務所を守るための光ではない。そこを守っていると町に見せるための光だ。だがラウクはもう、南壁を見ないふりをしながら、そこへ入る男の呼吸まで数えようとしている。
ドギョムは三本の線のうち、残った一本を指でなぞる。カジノシャトル停留所。路地。南壁。換気口。資料室。十分。
最も深く覗き込まれている場所へ、自分から歩いて入る。
カウンター下の無線受信機が短いノイズを吐いた。次いで、ラウクの声がかすかに割り込む。
「明日の夜、旧車両登録の巡回は予定より五分早めろ」
ドギョムの指が地図の上で止まった。与えられた十分は、まだ始まる前から、削られ始めていた。
法が遅すぎる町で、今日倒すべき悪党を倒す男
50話 廃鉱に埋もれた座標
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