扉の外で止まった革靴は、しばらく動かなかった。
ジェユンは名簿を胸に押し当てたまま、息を浅くした。鍵の先が古い錠前を探る音がして、玄関がきしむ。入ってきたのはソンロクだった。銀行裏口にいたはずの父は、いつもより顔色が悪く、黒い外套の肩に朝露をつけていた。
「……学校は」
「お腹が、まだ少し」
ジェユンは名簿を食卓の下へ滑らせた。ソンロクの目は一瞬だけその動きを追いかけたが、深く問い詰める余裕はないようだった。彼は靴を脱ぐのももどかしく、食卓の社内便封筒を取った。説明会出席通知書を見た指が、わずかに止まる。
「明日か」
声は低かった。怒りではない。疲れと、避けたいものを先に見てしまった人間の声だった。
「実印も持っていくんですか」
ジェユンの問いに、ソンロクは顔を上げた。
「会社の説明だ。余計なことを考えるな」
同じ言葉を何度聞いただろう。余計なこと。書くな。考えるな。見なかったことにしろ。テガンはいつもその言葉で、低い場所の人間から紙と声を取り上げてきた。
ソンロクは通知書を会社用かばんに入れ、またすぐ外へ出ていった。午後からの配車が入ったらしい。扉が閉まったあと、ジェユンは食卓の下から名簿を取り出した。一行目の父の名前は、さっきよりも濃く見えた。
説明会は、まさに明日の朝だった。
その夜、ジョンヒが市場から戻り、簡単な夕食を並べても、ジェユンは味を感じなかった。ソンロクは遅く帰り、食事をほとんど口にせず、かばんをたんすの横へ置いた。ジョンヒが「体、壊すわよ」と言っても、「明日が終われば少し落ち着く」とだけ答えた。
明日が終われば。
ジェユンだけが、その言葉の意味を別の方向から聞いていた。明日の朝を過ぎれば、父の名前の横に実印が押される。父が押せば、オ・マンシクも押す。警備班長キム・チュンベも、ほかの者たちも、順番に逃げ場を失う。
家族が寝静まると、ジェユンは布団から抜け出した。食卓のスタンドを壁へ向け、光を細くした。たんすの上の箱から古い給与封筒を取り出し、日付順に並べる。三月、六月、そして今月。福利基金先控除。社内振替。精算日空白。テガン建設管理チーム承認。
彼は学校の罫線ノートを開き、一枚の紙にびっしり書き写した。左に給与明細の日付、中央に配車表、右に城北洞別宅と本館地下の出入り。さらに今朝の外国銀行裏口を加えた。六時十分。会長専用一号車。チェ・ミンテ社長車。チャン・ムンシク。クォン副支店長。運転手給与通帳の写し。退職金確約書。
小学生の手はすぐ痛くなった。鉛筆の芯が何度も折れ、爪の先に黒い粉がついた。それでも止めなかった。前世で随行秘書だったヒョヌは知っていた。あとになって人を救うのは、大声の告発ではない。日付の合った一行、名簿の順番、余白に残った鉛筆の薄い名。その一枚が、閉ざされた部屋の鍵になる。
だが子どもにできることの限界も、同じくらい明らかだった。銀行に行って抗議はできない。新聞社へ駆け込んでも、子どもの妄想として追い返される。父にすべて話せば、まず怒られ、次に書類を取り上げられるかもしれない。
だから先に、紙を動かすしかなかった。
夜明け前、ジェユンは書き写した紙を二つに折り、教科書の間へ挟んだ。眠ったふりをする時間はほとんどなかった。ジョンヒが起き、味噌汁の匂いが部屋に広がる。ソンロクは会社用かばんから通知書を抜き出し、無言で実印の入った小さな布袋とともに上着の内側へ入れた。
「説明だけ聞いてくる。心配するな」
ジョンヒに向けた言葉だったが、自分に言い聞かせているようにも聞こえた。
ジェユンは学校かばんを背負った。いつもどおり靴を履き、路地へ出る。角を曲がるまでは歩き、母の目が届かないところで足を止めた。登校する子どもたちの列が大通りへ流れていく。彼はその列から外れ、近所の文房具屋のシャッターの陰で時間を数えた。
ソンロクが説明会へ向かう時間。ジョンヒが市場へ出る時間。隣の大家が共同水道を開ける時間。前世で役員の動線を組んだときと同じように、家の中の小さな空白を計算した。
十分後、ジェユンは半地下へ戻った。
部屋は静かだった。湯気の消えた食器、畳まれた布団、父の外套の匂い。彼はまずたんすの箱を下ろし、給与封筒を三つだけ抜いた。今月、六月、三月。福利基金先控除の増額と、城北洞別宅の配車が重なる月だった。封筒を学校かばんの底板の下へ深く押し込む。教科書を戻せば、外からはただ重いだけのかばんに見える。
次に、ソンロクの会社用かばんへ手を伸ばした。
父は説明会へ行ったはずなのに、かばんはたんすの横に残っていた。ジェユンは一瞬だけ迷った。実印と通知書は上着へ入れ、かばんは置いていったのだろう。説明会で配る書類は現場にある。だが父が昨日銀行から戻ったあと、何かを入れたはずだった。
かばんの外側には点検票と手袋しかなかった。内側の仕切りを指で探ると、薄い紙束が爪に当たった。縫い目の下へ差し込まれている。ジェユンは息を止め、紙を少しずつ引き出した。
表紙の文字が見えた。
運転職福利基金先払い同意書。
その下に、運転手別念書写し。さらに小さな一覧表が重なっていた。パク・ソンロク。オ・マンシク。キム・チュンベ。名前の横には家族確認欄、退職時精算欄、異議申し立て放棄欄が並んでいる。
幸い、まだ印は押されていなかった。
ジェユンは膝から力が抜けそうになるのをこらえた。機会は残っていた。原本を消せば、すぐに疑われる。だが写しの束から数枚だけ抜き、順番を保って戻せば、説明会までの短い時間は稼げるかもしれない。少なくとも父に、見なかったふりをさせない材料にはなる。
彼は一枚目を折ろうとした。指が震えた。紙の端が小さく鳴る。その音だけで、部屋全体が耳になったようだった。
その瞬間、玄関の外で鍵が鳴った。
ジェユンは固まった。説明会はまだ始まっていない。父が戻るには、一時間早すぎた。いや、早すぎるからこそ戻ってきたのだ。何かを忘れたのか。会社が手前で止めたのか。それとも、書類がないことに気づいた誰かが、父を家へ走らせたのか。
扉がきしみながら開いた。朝の冷気と一緒に、ソンロクが立っていた。黒い外套の襟は乱れ、額には細い汗が浮かんでいる。彼の視線は、散らばった給与封筒でも、開いた会社用かばんでもなく、ジェユンの手の中の同意書へまっすぐ落ちた。
部屋の空気が止まった。
ソンロクは一歩だけ中へ入った。怒鳴らなかった。その静けさのほうが、待機室の無線よりずっと重かった。父の声は低く、逃げ場を一つずつ閉じていくように響いた。
「ジェユン、お前が今持っているものは何だ」
財閥家の末息子ではなく、財閥家の運転手の息子に転生した
11話 同意書を挟んだ父子の問い
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