父の給与封筒。
その言葉をノートの端へ書いた瞬間、ジェユンの中で、ばらばらだった前世の資料が一気に組み上がった。城北洞の夜、外国銀行の裏口、テガン建設のチェ・ミンテ、父の口から漏れた「ドルを塞ぐ」という一言。そこに欠けていた線が、今ようやくつながった。
テガン建設は東南アジアのリゾート工事を看板にした。現地政府との覚書、海辺の造成地、ホテル棟の完成予想図。新聞にはきれいな言葉だけが並んだ。だが実際には、その工事を担保に円とドルを引き込み、ウォンの下落に真正面からぶつかった。為替が少し動くだけで借金は膨らみ、利息は雪のように積もる。
前世のヒョヌは、危機対策室の隅でその報告書を束にして運んだことがあった。役員たちは互いに責任を押しつけ、会長には整えられた数字だけを見せた。テガン建設の穴は、物流、警備、下請け工場、社員の福利基金へと順に広がった。衝撃がグループ全体を揺らすまで、三年もかからなかった。
『まだ早い』
ジェユンは鉛筆の先を紙に押しつけた。前世の記憶では、外貨の借り入れが露骨に動き出したのはもっと後だった。少なくとも一季節は先のはずだった。だが今、父の給料はすでに遅れ始めている。城北洞の夜も、外国銀行の役員移動も、記憶より早い。
早まった理由は分からない。自分が戻ったことで何かが変わったのか、それとも前世の自分が見ていなかっただけなのか。どちらにしても、危機は紙の上の未来ではなく、食卓の上の麦茶と母のつけ帳にまで降りてきていた。
翌朝、ジェユンは学校へ行く途中で、駅前の新聞売り場に立ち寄った。小学生が一面を読むのは不自然だ。だから彼は漫画雑誌の表紙を眺めるふりをしながら、経済新聞の見出しだけを拾った。
円高基調。ドル資金調達難。海外建設受注、東南アジアリゾート事業拡大。
紙面の端に、テガン建設の名前があった。記事は景気のよい調子で、現地観光開発と大型ホテル建設の期待を語っていた。チェ・ミンテ社長が海外工事を足がかりに、グループの新しい成長軸を作るという短い談話も載っている。
ジェユンは唇を噛まなかった。子どもの顔で唇を噛めば、売り場の主人が気にする。彼はただ、新聞の折り目の位置を覚えた。為替記事は二面。海外工事受注は七面。外国銀行ソウル支店の記事は小さく、金融面の下段。
マイケル・クォンの名前は、その日は載っていなかった。だが載らないことも記録だった。公式に名前が出る前に、会長車が裏口へ行った。その順序が重要だった。
学校では、教師が黒板に分数を書いていた。ジェユンは問題を解くふりをして、ノートの後ろへ新聞売り場で見た言葉を書き足した。
東南アジアリゾート。円。ドル。為替。受注記事先行。
その下に、さらに小さく書いた。
記憶より一季節早い。
鉛筆の芯が少し折れた。隣の席の子が消しゴムを転がして笑った。ジェユンは拾って渡しながら、同じように薄く笑った。笑い方だけは子どもに見えるようにした。内側で動いている計算を、誰にも見せてはいけなかった。
その夕方、半地下の部屋には市場から持ち帰った大根の匂いが満ちていた。ジョンヒは惣菜屋のエプロンを外す前に、小さな帳面を開いた。米屋、練炭、薬代、家賃。数字の横に、赤い丸が増えている。
「このままじゃ、来週の市場のつけをまた伸ばしてもらわないといけないわ」
ソンロクは洗面器の水で手を洗っていた。袖口に黒い油が染みている。彼は聞こえないふりをしたが、ジョンヒは帳面から顔を上げなかった。
「あなた、会社では何て言ってるの。給料はいつ元に戻るの?」
「一時的だ」
「その一時的が、先月も今月も続いてるのよ」
「大会社が運転手の給料を踏み倒すわけがないだろう」
ソンロクの声は、言葉ほど強くなかった。むしろ急いで扉を閉めるような響きがあった。会社を疑う言葉を家の中に置いておきたくないのだ。疑えば、自分の誇りまで崩れる。会長車を任される運転手として生きてきた父には、それが恐ろしい。
ジョンヒは疲れた目で夫を見た。
「踏み倒すなんて言ってないわ。ただ、いつなのか知りたいだけ。ジェユンの学校の集金もあるし」
「来週には出る。そう聞いた」
「誰から?」
ソンロクは答えなかった。手についた水を古いタオルで拭き、壁に掛けたスーツを見た。会長車の運転手としての制服に近いその服は、彼の誇りであり、首輪でもあった。
「会社の話は、食卓でするな」
それで会話は切れた。
ジェユンは宿題帳を開いたまま、母の帳面の赤い丸を見ていた。前世の会議室では、こういう赤い丸は出てこなかった。そこにあったのは億単位の数字と、損失処理の表現だけだった。だが本当の危機は、まずこの赤い丸として現れる。米屋に頭を下げる母の声、家賃を待ってもらうための嘘、父が会社を信じるふりをして飲み込む沈黙。
介入する時期を誤れば、全員が壊れる。
早すぎれば、父は「会社の紙を外に漏らす運転手」として目をつけられる。ソンロクは会長車から外され、ジョンヒの市場の仕事にまで圧力が届くかもしれない。小学生のジェユンにできる抵抗など、簡単に踏み潰される。
遅すぎれば、書類は焼却される。給与封筒の控えも、福利基金の同意書も、銀行の振替記録も、説明会の名簿も、すべて「整理済み」になる。前世で何度も見た。都合の悪い紙は、最初から存在しなかったものとして片づけられる。
狙うべきは一つだった。
運転手たちの金が、会社資金と混ざる瞬間。
給料の遅配だけなら言い逃れられる。福利厚生の調整だと言えば済む。だが運転手給与、退職金、福利基金がテガン建設の穴を塞ぐ口座へ一度でも流れれば、そこには必ず振替の痕が残る。会社はそれを消す前に、運転手たちの同意書や管理印の押された封筒を配るはずだった。
ジェユンはその瞬間を待たなければならなかった。待つが、遅れてはいけない。子どもの体の中で、三十九歳の秘書の記憶が静かに速度を測った。
夜になって、ソンロクは明日の勤務に備えてスーツを畳んでいた。狭い部屋では、衣類をしまうにも食卓を使うしかない。ジョンヒは奥で洗濯物を絞り、ジェユンは床に座って鉛筆を削っていた。
「父さん、明日も早いですか」
「普通だ」
普通という言葉に意味がないことを、ジェユンはもう知っていた。公式の日程表の外に、城北洞も外国銀行もあった。
ソンロクは上着を軽く振り、内ポケットを押さえた。そのとき、薄い茶色の封筒が一つ、するりと床へ滑り落ちた。
落ちた音は小さかった。だがジェユンには、車載電話の呼び出し音より大きく聞こえた。
ソンロクが先に手を伸ばす。ジェユンも反射的に視線を落とした。封筒の表には、父の名前が黒いペンで書かれていた。その右上に、青いインクの角印がはっきり押されている。
テガン建設 管理チーム。
ジェユンの指先から、削りかけの鉛筆が転がった。
給与封筒ではない。建設から運転手個人へ、管理チームの印を押して渡される封筒。前世の記憶の中で、それはただの通知ではなかった。人の給料を会社の穴へ流し込む前に、同意した形を作るための入口だった。
ソンロクは封筒を拾い上げ、すぐに内ポケットへ戻そうとした。だが一瞬だけ、封が完全に閉じていないのが見えた。中には白い紙が二つ折りで入っていた。
その折り目の端に、ジェユンは見覚えのある文字を見た。
先控除。
父の手が止まった。ジェユンが見たことに、気づいたのだ。
狭い半地下の部屋で、三人の呼吸が同時に薄くなった。ジョンヒは洗濯物を握ったまま振り返り、ソンロクは封筒を胸元へ押しつけた。
ジェユンはゆっくり顔を上げた。
この封筒を開けるかどうかで、父の人生はもう別の道へ入る。だが開けなければ、家族全員が知らないまま担保にされる。
ソンロクの低い声が落ちた。
「これは、会社のものだ。見るな」
その声には命令よりも、恐れが混じっていた。ジェユンは初めて、父が会社を信じているのではなく、会社を疑う自分をまだ許せないのだと分かった。
封筒の青い管理印が、裸電球の下で冷たく光っていた。
財閥家の末息子ではなく、財閥家の運転手の息子に転生した
6話 給与封筒に残る未来の担保
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