テオの喉の奥で、黒い熱が音もなく燃え上がる。
コ・テシクはその反応を恐怖と見たのか、さらに笑う。スタンガンの青白い火花が一度跳ね、コンテナの薄い壁に冷たい影を刻む。彼の後ろには、もう二人の見張りが立っていた。片方は携帯電話を握り、もう片方は鉄パイプを肩に担いでいる。
「顔、上げろ。写真と合ってるか、ちゃんと見る」
テシクが紙を目の高さまで上げる。ジヒョクの歪んだ笑いが、印刷の端で小さく光る。
テオは一歩も動かない。足元の点検蓋の下で、ナルギザたちが息を殺している。ラヒムの肩が震え、壁際の作業員二人も声を失っている。ここで捕まれば、全員が元の檻へ戻される。いや、戻されるだけでは済まない。
「聞こえねえのか、ガキ」
テシクが近づいた瞬間、胸元の新聞紙が内側から焦げた。
テオは反射的に作業服の下へ手を入れる。包んでいた黒い蝋燭が、火もないのに燃えていた。新聞の端は灰になり、黒い炎だけが音を立てずに揺れている。刻んだコ・テシクとハン・ヨンベの名が、溶けた蝋の中で生き物のようにうねる。
「何だ、それ」
携帯を持った見張りが声を裏返す。テシクも足を止めた。だが黒い炎はテオの手を焼かない。代わりに、床を這うように細い煙が伸び、テシクの靴先、鉄パイプの男の影、携帯の黒い画面へ次々と絡みつく。
割れた鏡も帳簿もない。なのに濡れた紙をめくる音が、コンテナの天井から降る。
「おい、誰だ……」
テシクの声が途切れる。彼の目は、携帯を持つ同僚の手元に釘づけになっていた。
そこには何もない。ただ安いスマートフォンがあるだけだ。だがテシクには違って見えている。画面の上で、赤い印の押された督促状が何枚も重なり、同僚の指がそれを握っているように見えていた。
『コ・テシク様。違法賭博債務。延滞利息。家族勤務先通知予定』
テシクの唇が白くなる。
「お前……それ、どこで拾った」
「は?」
「俺の紙だ。返せ」
「何言ってんだ、班長」
携帯の男が一歩退く。その動きが、テシクには証拠を隠す仕草に見えた。太い首に血管が浮く。
同時に、鉄パイプの男が携帯を持つ同僚を見て硬直する。彼の目には、同僚の画面で別の映像が再生されている。薄暗い路地で、不法滞在の男を蹴り倒し、登録証を奪って笑う自分の姿。録音の声まで聞こえているのか、男は歯を鳴らした。
「消せ」
「だから何をだよ!」
「消せって言ってんだろ!」
鉄パイプが横から振られ、携帯の男の肩に鈍く当たる。携帯が床へ落ち、画面は割れないまま黒く光る。そこからまた、誰かの借金の音、殴られた労働者の呻き、白蛇の印が押された控除表の紙擦れが漏れる。
テシクが咆えるように殴りかかった。
「俺のことを会社へ売る気か! ハン・ヨンベに渡すつもりだったんだろ!」
「班長、やめろ! 見えてねえのか、こいつ俺の動画を――」
「動画? お前も俺を撮ってたのか!」
恐怖は、一息で怒りへ変わった。三人の男たちは、鉄扉の前で互いを敵だと決めつける。拳が頬を打ち、鉄パイプが壁にぶつかり、スタンガンの火花が床を青く舐める。コンテナが内側から揺れ、ラヒムが思わず声を漏らしかけた。
テオはその口を手で塞ぐ。
「今だ」
低く言い、点検蓋を押し上げる。ラヒムはすぐに頷き、残った作業員二人を先へ促す。外ではテシクが携帯の男の胸ぐらをつかみ、頭から鉄扉に叩きつけている。鉄パイプの男は鼻血を流しながら、見えない画面を踏みつけるように足を振り下ろしていた。
「ラヒム、先に」
「君、あと」
「俺が蓋を戻す。早く」
ラヒムは一瞬だけ迷うが、作業員の一人に背中を押され、狭い配管へ体をねじ込む。肩が引っかかり、苦痛で顔が歪む。テオは両腕で押し込み、ラヒムの足が暗い穴へ消えるのを待つ。次に作業員二人。大柄な男は無理だと首を振ったが、外の怒号を聞いた瞬間、歯を食いしばって腹を潰すように潜った。
テオは最後に点検蓋をずらし、半分だけ戻した。完全に閉じれば追手は防げるが、空気も途切れる。男たちの乱闘はまだ続いている。テシクの額が割れ、黒い血のような汗が目元へ流れていた。
その足元で、黒い蝋燭はほとんど溶けている。炎は小さくなったが、名前の溝だけは赤く残り、煙は男たちの首に縄のように絡んでいた。
『これは、あいつら自身の紙だ』
テオは思う。存在しない罪を作ったのではない。彼らが隠したものを、互いの手に握らせただけだ。
それでも、背筋は冷える。自分が火をつけなくても燃えた。怒りに反応して、手綱の方から走った。
「こっち!」
配管の奥から、ナルギザのかすれた声が聞こえる。テオは低く身を滑らせ、湿った筒の中へ入った。肘と膝を擦りながら進む。油と下水の臭いが喉を塞ぎ、後ろではまだ人が殴られる鈍い音が響く。
数メートル進んだところで、前方に冷たい空気が流れた。ナルギザが外側の鉄板を押している。少年二人も肩で支えているが、板はわずかにしか動かない。
テオは鉄棒を差し込み、全身の力をかける。錆が砕け、鉄板が外へ倒れた。湿った草と廃材の匂いが流れ込む。
「出ろ」
ナルギザ、少年二人、ラヒム、作業員たちが順に這い出る。そこは工場裏の廃材置き場のさらに外れだった。古い塀と積み上げられた金属板が視界を遮り、正門側の照明は遠い。
だが安全ではない。コンテナの方から警報のような怒鳴り声が上がる。
「逃げたぞ! 下だ、下を見ろ!」
幻が切れたのか、誰かが気づいたのだ。
テオは周囲を見回す。廃材の山の向こうに、古い箱型トラックが一台止まっていた。白い塗装は剥げ、側面には消えかけた部品会社の名前が残っている。運転席の窓が少し開いていた。
「乗れる人、荷台へ。早く」
「鍵、ない」
ラヒムが震える声で言う。テオは運転席へ走り、ドアを引く。開いた。ハンドルの下に、赤い紐のついた鍵がぶら下がっている。構内用の古い車なのか、誰も抜いていなかった。
エンジンは二度目でかかった。重い音が夜を震わせる。テオは免許など持っていない。物流倉庫で何度も見た運転手の動きを思い出し、震える手でギアを入れる。トラックは一度大きく跳ね、廃材の山に擦れながら動き出した。
「伏せて!」
荷台の中で誰かが息を呑む。正門へ向かう通路は一本だけだ。背後では懐中電灯が揺れ、男たちが走ってくる。テオはアクセルを踏み込む。古い車体が悲鳴を上げ、工場棟の影を抜ける。
このまま門を破れるか。警備室の前に一人しかいなければ、混乱に乗じて外へ出られる。テオはそう判断しかける。
だが、正門の手前で白い光が同時に二つ点いた。
黒いワゴン車が二台、道路を塞ぐように横向きに止まっていた。ヘッドライトがトラックのフロントガラスを焼き、テオの視界が真っ白になる。ブレーキを踏む足が遅れ、荷台で悲鳴が上がる。トラックは斜めに滑り、門の数メートル手前でようやく止まった。
逃げ道はない。
そう直感した瞬間、左側のワゴン車の後部座席の窓がわずかに下がった。眩しい光の隙間、ガラス越しに青白い顔が浮かぶ。唇の赤い傷。深く落ちた目の下の影。自分の罪に追われながら、それでも他人を差し出して生きようとする歪んだ笑み。
カン・ジヒョクが、そこにいた。
彼は窓の奥でゆっくり携帯電話を持ち上げる。画面には、テオの祖母が暮らすミョンジンヴィラ三〇二号の玄関写真が、白く光っていた。
黒い蝋燭にいじめっ子の名前を刻んだ夜、俺は裏社会の鏡王になった
25話 白蛇の印が見返す夜
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