外側のノブは半分だけ回り、そこで止まる。
箒の柄が、扉の内側で乾いた音を立てる。雑巾を巻いた端が金属フックに噛み、安物の木がぎしりと曲がる。外にいる男の一人が、短く舌打ちした。
「清掃中か?」
もう一人が低く返す。
「標識は出てる。だが鍵は開いてる」
ドギョムは答えない。変換器のランプを見る。黄色が細かく震え、緑へ変わる寸前の弱い明滅を繰り返している。扉の向こうで、男が肩を当てる気配がする。箒は正式なかんぬきではない。次に強く押されれば、柄が折れるか、フックから跳ねる。
壁の向こうではプライスの声がまだ滑らかに続いている。
「制度とは、人を罰するものではありません。立ち上がる機会を与えるものです」
緑。
ドギョムは変換器の小さな再生ボタンを押す。指先にクリックの感触が残る。次の瞬間、壇上裏の配線が短く唸り、電気室の薄い壁の向こうで、客席から小さなどよめきが起こる。
大型スクリーンに映っていたプライスの笑顔が、一瞬だけ水面のように揺れる。紺のスーツ、白い歯、星条旗のピンが横へ裂け、そこへ灰色の作業場の映像が割り込む。
焦点は甘い。だが、見せたいものだけは残酷なほどはっきり映っている。ビニール手袋をはめた手が、白い錠剤を透明袋へ落とす。手首の保安ブレスレットが赤く点滅する。ラインの端に積まれた箱には、黒い印字でB-L-17に似たシリアル番号が読める。
客席の拍手は途中で千切れる。
プライスはマイクを持ったまま、最初の一秒だけ口を開けて止まる。次に笑う。写真の笑顔より少し硬いが、まだ舞台の上で使える笑顔だ。
「おや。機械も緊張しているようですな。こういう夜に限って、古い設備は町長の話より目立ちたがる」
前列の何人かが、反射的に笑おうとする。だが笑いは広がらない。スクリーンでは、灰色の作業服の人物が次の箱を運び、手首の赤い点滅が同じ間隔で光り続ける。
画面の片側に、数字が重なる。
五桁の識別番号が三行。
その下に、同じ書式の二行。左に番号、右は空欄のまま。死亡日も、死因も、医師署名もない。表示はほんの数秒で、すぐに作業場の映像へ戻る。それでも、客席の一部には十分すぎる時間だった。
中央より少し右、家族席の列で椅子が鳴る。
ディナが立ち上がっている。濡れてにじんだ面会申請書を、両手で握っている。紙の端は何度も折られ、受付印のない欄が雨と手汗で薄く汚れている。彼女の唇は動くが、声はすぐには出ない。目は舞台ではなく、スクリーンの空欄二行に釘づけになっている。
「トミー……」
その名は、隣の椅子の背にぶつかるほど小さい。だが近くの人間には届く。
ディナの隣で、グラディスが震える手を鞄へ入れる。小柄な老女は、折り畳んだ死亡診断書の写しを一枚取り出し、隣席の男へ見せる。赤いペンで丸をつけた午前二時四分の発行時刻と、なぞられた医師署名。男は最初、意味がわからない顔をする。だが、その不自然な書類とスクリーンの空欄のつながりに気づき、顔をこわばらせる。
後ろの列で、別の女が立ち上がる。財布を開き、古いレシートの裏に書かれた五桁の数字を見比べる。手が震えて、レシートが床へ落ちかける。彼女は拾うことも忘れ、口を押さえたままスクリーンを見る。
さらに一人、痩せた男が立つ。立っただけで、周囲が椅子を引く。彼の手には、角の擦り切れた写真がある。裏を向けた写真の端に、同じ書式の番号がにじんでいる。
もう一人の家族は、舞台を見ない。出口のほうを見る。今すぐ逃げるためではない。これが始まったあと、誰が扉を閉めるのかを探す目だった。
記者席では、ペンの音が一斉に速くなる。カメラのレンズが壇上のプライスから客席へ、客席からスクリーンへ、また壇上へと振れる。州知事随行の職員の一人が耳元のイヤホンに手を当て、何かを聞こうとしている。
プライスはマイクを近づける。
「皆さん、落ち着いてください。ただの入力系統のエラーです。どこかの古い資料映像が混線したのでしょう。ブラスヒルには、古い施設が多いものですから」
柔らかい。冗談の形をしている。だが最後の一語だけ、わずかに硬い。
壇上裏でスタッフが走る。スクリーン管理卓の男がケーブルを抜き差しし、別の男が手元の端末を叩く。大型スクリーンの映像が一度白く飛び、灰色の作業場が戻り、また揺れる。
作業場の映像は一分も続かない。
突然、画面が暗転する。次に、プライスの写真が戻る。「リハビリで立ち上がる町」の標語も戻る。子供と握手する町長の写真も戻る。何もなかったように、ゆっくりと切り替わる。
だが客席は戻らない。
椅子は鳴り続け、人々は隣同士で紙を見せ合い、番号を口に出す。誰かが「見たか」と言い、誰かが「消えた」と返す。携帯電話を取り出す者がいる。古い小型カメラを鞄から出す者もいる。記者たちはもう、町長の用意した原稿ではなく、客席で立ち上がった人間の顔を書き留めている。
揺れたのはスクリーンではない。
ブラスヒルそのものだ。
電気室の中で、ドギョムは変換器を抜く。黒いUSBを内ポケットへ戻し、カートの持ち手を握る。扉の外では、男たちがまだノブを押している。箒の柄は半分割れ、雑巾がずれている。次で開く。
ドギョムは片手で箒を外し、扉を内側へ少しだけ引く。外の男が勢いを失って一歩前へ崩れた瞬間、彼は清掃カートを押し出す。洗剤の空ボトルが床を転がり、男の足首へ当たる。
ドギョムは走らない。走れば記憶に残る。カートを押す清掃員のまま、後方通路の曲がり角へ消える。
壇上では、プライスが再びマイクスタンドを握っている。指が白くなるほど強い。彼は笑顔を貼り直し、進行役へ小さくうなずく。まだ舞台を取り戻せると信じている顔だ。いや、信じているふりをする顔だ。
その舞台脇に、ラウクが立っている。
私服の袖口から見える手は動かない。目だけが動く。客席で立ち上がったディナ。死亡診断書を掲げるグラディス。財布の中の古いメモを握る女。出口へ目を走らせた男。記者席のレンズ。すべてを一度ずつ見て、最後に視線を客席の後方通路へとゆっくり滑らせる。
その先にあるのは、電気室のドアだった。
法が遅すぎる町で、今日倒すべき悪党を倒す男
56話 雨中の転進と標的変更
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