その言葉のあと、地下室では誰もすぐに動かない。正午という時刻だけが、雨音の間に置かれた刃物のように光っている。プライスが勝った顔を作る前に、フィントンの口を開かせる。そのためには、ラウクの目を別の場所へ引き剥がす必要があった。
イベントまであと三日に迫った夜明け。
夜が薄くなり始めるころ、ドギョムはダッフルバッグを開けた。中には、ルーファスが死ぬ前に残していた廃トラックのキーが一組ある。赤いフォードとは別の、荷台もドアも錆びきった車のものだ。タグの油汚れに、ルーファスの指の黒い跡がまだ残っている。
ヘナが階段の下で彼を見ている。
「一人で行くんですか」
「餌を置くだけだ」
「ラウクは、先にその場所の名を出しました」
「だから使う」
ドギョムは短く答え、圧迫包帯の束をひとつ取り出す。七号室で使った残りと、地下室で切った新しいものを混ぜてある。その端に、乾いた血を少しだけ擦りつけた。新しく見えすぎず、古く見えすぎない量だ。ラウクなら、においではなく、血がそこへ残る理由を嗅ぐ。
ジョアンが毛布の中から目を開ける。
「罠に……見えすぎる」
「見えすぎるくらいでいい」
ドギョムは袋を閉じる。
「見えない罠は、ラウクが踏まない」
地下室を出る前、ミゲルが弁当箱を抱えて階段脇に立つ。折れた二本の指には添え木があり、テープの端が汗で少し浮いている。
「無線、聞いてます」
「録るな。今朝は聞くだけだ」
「はい」
ドギョムは少年の肩越しにアルマを見る。彼女は何も言わない。だがミゲルの背後に立つ位置を、一歩だけ変える。誰かが階段から入ってきた時、先に自分が押し出される位置だ。
ドギョムはその動きを見て、何も言わず階段を上がる。
夜明け前の町は、雨に洗われたようで、実際には何も洗われていない。焼けたダイナーの黒い骨、閉じた薬局、保安官事務所の窓の黄色い明かり。どれも濡れて光るだけで、臭いは残っている。
ルーファスの廃トラックは、教会から北へ三ブロック離れた廃ガレージの陰に隠してあった。エンジンは一度ではかからない。二度目で咳き込み、三度目で低く唸る。ドギョムはライトを点けず、サイドブレーキを少し引いたまま、町の北側へ向かった。
古い鉄道駅は十年前に閉鎖された。貨物ホームの屋根は半分落ち、錆びた貨車が二両、レールの上で腐った箱のように並んでいる。信号所は線路脇に傾き、窓ガラスは一枚も残っていない。赤い信号灯の笠だけが、枯れた虫の殻のように柱へぶら下がっている。
ドギョムは廃トラックを駅舎から百メートル手前の雑木の陰に止める。キーを抜かない。誰かが見つけた時、ここで降りたとわかるようにするためだ。運転席の足元には泥をつけ、ペダルの縁に軍用ブーツの跡をひとつ強く残す。
ホームへ上がると、コンクリートは雨で黒く濡れている。彼は持ってきた小瓶のディーゼル油を薄く垂らし、貨車の角から信号所まで歩く。足跡は濃く残る。途中で一度だけ歩幅を崩し、肋骨をかばった男の動きにする。七号室の血痕を読んだラウクなら、その一歩にも意味をつける。
信号所の内側は、古い紙と鳥の糞と錆の臭いがする。床板は抜け、壁の通信盤は中身を抜かれている。ドギョムは入口から見える位置に軍用寝袋を一枚広げた。きれいに置かない。急いで畳み損ねたように端をねじる。横に缶詰の箱を三つ置く。すべて開けていない。持ち込んだ量が多すぎると思わせるためだ。
最後に、圧迫包帯の束を通信盤の下へ落とす。ほどいた端は、戸口へ向けてわざと伸ばした。血のついた部分だけが、朝の灰色の光を受ける。見落とすには目立ち、拾うには生々しい。
ドギョムはしゃがみ、床の埃に指で短い線を引いた。三本ではない。ヘナの屋根裏の梁と同じ数にはしない。ここを本当の拠点に見せる必要はない。誰かが一晩だけ使い、慌てて離れた場所でいい。
外に出る時、信号所の入口に肩を軽くぶつける。布に付けた血が、木のささくれへ細く残る。彼は振り返って確認し、すぐ消したい衝動を押し殺す。痕跡はきれいすぎても、汚すぎても嘘になる。
帰り道は同じ線を使わない。レールの間を二十歩進み、貨車の影を抜けて、崩れた柵から草地へ降りる。背後の鉄道駅は、夜明けの青い雨の中で沈黙している。だがそこにはもう、ラウクが好む種類の言葉が置かれている。寝袋。缶詰。包帯。血。軍用ブーツ。ディーゼル。
町へ戻るころ、カジノシャトル停留所の屋根の下に、老人が一人座っている。古い帽子をかぶり、新聞を持っているが読んではいない。保安官代理たちがよく使う情報屋だ。誰が朝の便に乗り、誰が乗らなかったかを覚えて、硬貨と引き換えに話す男。
ドギョムは停留所の脇の路地へ入り、壁際で足を止める。老人は見ないふりをする。こういう男は、見ないふりをしている時ほど見ている。
ドギョムは二十五セント硬貨を一枚、新聞の端へ滑らせた。硬貨は濡れた紙の上で小さく鳴る。
老人の目だけが動く。
「北の鉄道駅の信号所で、灰色の外套を見た」
老人は新聞を畳まない。
「誰に言えばいい」
「聞かれた相手に」
「いつ見た」
「夜明け前」
老人は硬貨を指の下に隠す。次の瞬間には、彼はただ寒そうに座っている年寄りに戻っている。ドギョムは路地の奥へ抜け、裏道を使って教会へ戻った。
地下室へ降りると、受信機がすでに低く鳴っていた。ミゲルがレバーに指をかけたまま、目だけでドギョムを見る。ヘナは救急キットのふたを開けているが、中身には触れていない。全員がラジオの声を聞いている。
地元局の読み上げが流れる。
「保安官事務所は、逃走中の外部暴力容疑者について、背が高く、黒髪、アジア系、軍用外套、古いダッフルバッグ、軍用ブーツを着用している可能性があるとして、住民へ注意を呼びかけています――」
同じ文面。だが今日は続きがある。
「北側外郭道路および旧貨物駅周辺では、道路安全確認のため一時的な検問変更が行われます。住民の皆さまは、指示に従い――」
ミゲルが息を吐く。
「動いた」
「一筋だけだ」
ドギョムは濡れた外套を脱ぎ、壇の上の五方向の略図を引き寄せる。フィントンの路地、会場広場、D-3、マローンの輸送線、鉄道駅。彼は鉄道駅の横に、小さなX印を描く。強くは書かない。鉛筆の芯が紙に食い込まない程度の印だ。
ヘナがそれを見る。
「広場は」
ドギョムはコンベンションホール広場の枠を空けたままにする。そこにはまだXを書かない。ラウクが見せてくる動きと、見せない動きが分かれるまで、広場は空白にしておく必要がある。
グラディスが古いレシートの束を握る。教会側の店で買った缶詰、電池、包帯の控えだ。ラウクがそれを並べていることを、全員が知っている。鉄道駅の餌は濃い。だが教会の匂いも、もう薄くはない。
「これで、向こうは駅を見る」
ディナが言う。願いに近い声だ。
ドギョムは受信機の針を少し動かす。保安官周波数の向こうで、短いノイズが切れ、別の声が一瞬だけ混じる。北の貨物駅、信号所、確認班。そこまでは予想どおりだ。
だが次の声は、すぐに消された。言葉は半分だけだった。
「……教会側の店は、まだ――」
ミゲルが顔を上げる。ヘナの手が止まる。ドギョムは鉄道駅のXを見ず、空白のまま残した広場の枠を見る。
餌は投げた。問題は、ラウクがどこまで深く食いつくかではなかった。
食いついた顔をしながら、もう何を噛み切りに来ているかだった。
法が遅すぎる町で、今日倒すべき悪党を倒す男
86話 黒い尾灯と砂漠の滑走路
次の話