その叫びで動画は終わるはずだった。
だが画面は暗くならない。撮影している誰かが、笑いを噛み殺しながらまだ携帯電話を向けている。パク・ドンスはレジ前で膝をつき、握った紙を床へ叩きつける。普通なら千ウォン札か五千ウォン札がひらひら落ちる場面だ。けれど画面の中でそれは、水を吸った古い紙のようにべたりと床に貼りつく。
テオは歩道の端で固まったまま、親指を動かせない。
――これ、合成?
――ドンス兄、薬やってんのか。
――やば、店員泣いてる。
――誰かジヒョクに送れ。
グループチャットの吹き出しが、動画の上へ重なって流れていく。朝のバスを待つ学生、現場実習へ向かう者、徹夜明けでまだ布団の中にいる者まで、夜間クラスの誰もが同じ映像を開いているらしい。最初は笑いだった。大柄なドンスがコンビニで騒いでいる。それだけなら、いつもの悪ふざけの延長で済んだ。
しかしテオには笑えない。
画面の奥、レジ横の青い募金箱。入口に貼られた折れた傘の割引シール。カウンターの端に置かれた、期限切れ間近の三角キンパの黄色い値引き札。
知っている。
そこは、ジヒョクに給料封筒を奪われた朝、薬局へ行く前に水だけ買ったコンビニだった。財布の中に残った小銭を数え、レジの店員に目を合わせられず、ポケットの底まで空になったことを知った店。ドンスが暴れているレジは、あの時テオが濡れた手で硬貨を置いた場所そのものだった。
喉が勝手に縮む。
動画の中で、店員が震える声を出す。
「お客様、落ち着いてください。これはお釣りです。お金です」
「違うって言ってんだろ!」
ドンスは客が差し出した紙幣をつかむたび、弾かれたように手を引っ込める。紙幣を見た瞬間、顔から血の気が引き、次に怒鳴り、最後には泣きそうな声で否定する。レジ前の客たちは最初、腹を抱えるように笑っている。誰かが「ドンス、演技うまいな」と言う。別の生徒らしい声が、「借金取りにでも追われてんのか」とはやし立てる。
ドンスは聞いていない。
「俺じゃねえ、俺が借りたんじゃねえ! ジヒョクが、いや、違う、違う!」
名前が半分漏れた瞬間、画面の周囲の笑いが少し鈍る。ドンスはレジの下へ這い込む。大きな体が棚にぶつかり、ガムの箱がばらばら落ちる。制服の膝が床の汚れをこすり、肩がカウンターに引っかかる。彼は両手で頭を抱え、レジ台の暗がりへ逃げ込もうとする。
「紙、紙が来る。全部、血がついてる。俺の名前じゃねえのに、俺に払えって……やめろ、来るな!」
撮影者の笑い声が戻りかける。
「おい、レジの下入ったぞ。マジで犬かよ」
次の瞬間、ドンスが床を掻く。
がり、と嫌な音が動画越しに響く。はじめ、テオは棚の金具を引っかいたのだと思う。だがドンスの手が画面の光に入った瞬間、チャットの流れが止まる。
爪の間から、赤いものがにじんでいる。
ただ擦りむいた程度ではない。十本の指の先、爪と肉の隙間から、細い糸のような血が床へ落ちる。ドンスはそれにも気づかず、目に見えない紙を払いのけるように空中を叩き続ける。血はレジ下の白いタイルに点々とつき、古い借用書の赤い拇印と同じ色で広がっていく。
笑い声が完全に消える。
誰かが小さく「本物じゃん」とつぶやく。別の誰かが、撮るのをやめろと言う。けれど撮影者の手も震えているのか、映像は止まらない。カメラは床の血と、ドンスの歪んだ顔と、彼が握りしめた紙を行ったり来たりする。
その紙には、たしかに字がある。
古い紙面の上に、金額欄と日付欄、赤い指跡。墨でにじんだようなハングルは、動画の粗さのせいではっきり読めない。それでもテオは、月影堂の帳簿に並んでいた欄の形を思い出す。姓。名。金額。日付。赤い拇印。
足元が薄く沈む感覚がした。
夕方、ハンビット工業高校の夜間クラスに着くころには、動画はもう別の形で増えている。最初の投稿だけではない。切り抜き、拡大、スロー再生、店内にいた別の客が撮った横からの映像。クラスの前列でも後列でも、机の下で同じ悲鳴が何度も再生される。
「これマジで血出てるって」
「ドンス、今日来ねえの?」
「店、どこだよ。近所じゃん」
教室はいつもよりざわついている。教師が来る前の短い時間、誰も教科書を開かない。動画を持っている者が王様みたいに携帯を見せ、持っていない者がのぞき込む。テオは最後列へ座り、鞄を膝に置いたまま動かない。
斜め前の席に、カン・ジヒョクがいる。
いつものように片方の口角を上げていない。染めた茶色の髪を乱暴にかき上げ、携帯電話を低く持っている。画面の光が彼の顎を青白く照らす。動画の中でドンスが「ジヒョク」と言いかけるところまで来ると、ジヒョクの親指が一度止まる。
唇の端を噛んでいる。
強く噛みすぎて、薄い赤がにじんでいる。周りの生徒は気づかない。ジヒョクはすぐ画面を消し、肩越しに教室を見回す。視線が一瞬、最後列のテオへ刺さる。
テオは目をそらせない。
ジヒョクの目には怒りがある。だがそれだけではない。教室の蛍光灯の下で、彼の瞳の奥に、ほんの薄い不安が浮かんでいる。相手が殴り返してくるかもしれないという警戒ではない。自分の知っているルールの外側から、何かが手を伸ばしてきたときの目だ。
テオの携帯がまた震える。
誰かが、例の動画の最後だけを切り抜いて送り直している。再生しなくてもいい。もう見た。そう思うのに、指が勝手に画面へ近づく。いや、違う。近づいているのではない。止めようとしても、指が言うことを聞かない。
『消せ』
心の中で命じる。電源ボタンを長押しすればいい。今すぐ画面を暗くし、鞄の底へ押し込めばいい。月影堂も、黒い蝋燭も、灰の柱も、祖母が呼んだ名前も、全部を見なかったことにする。
親指は震えたまま、再生ボタンを押す。
動画は最後の十秒から始まる。レジ下に潜ったドンスが、血のついた指で何かを掴もうとしている。店員が後ろで泣き、客が距離を取る。カメラの角度は低い。ドンスの顔がゆっくり上がる。
彼はカメラを見ていない。
もっと高い場所、コンビニの天井より上を見るように、黒く濁った目を宙へ向けている。月影堂の鏡の底をのぞいた時と同じ、焦点の合わない目だ。
「ユン・テオ……」
今度は叫びではない。
低く、喉の奥から擦れた声で、ドンスは名前を呼ぶ。教室のざわめきが遠ざかる。動画の音だけが、テオの耳へ直接流れ込む。
「お前、何をした。紙が……紙が、お前の後ろから来る。やめろ。俺に払わせるな。俺だけじゃない。あいつも、あいつも……」
そこで映像が乱れ、誰かの悲鳴とともに切れる。
テオはようやく電源ボタンを押す。画面が黒くなる。けれど黒い画面には、教室の天井ではなく、月影堂の鏡のように深い暗がりが映っている。そこに映った自分の顔は青ざめ、唇だけがかすかに開いている。
やったのか。
言葉は声にならない。あの地下でつぶやいた願いが、本当に働いた。ドンスは、自分がテオから奪った紙幣を掴むたび、血の借用書を見ている。祖母の声を笑いものにしたことも、押さえつけた腕も、奪った金も、見えない帳簿の中で返され始めている。
恐怖が胃の底からせり上がる。
その底に、別の感覚が混じっている。
指先から肘へ、冷たい痺れが走る。倉庫で重い箱を持ち上げた後の痛みではない。黒い蝋燭に刻んだ文字が、皮膚の下で細く燃えているような感覚だ。怖い。吐きそうだ。なのに、その痺れはどこか甘く、長く閉じ込められていた息が初めて通った時のように、胸の奥を広げていく。
テオはその事実から目を背けられない。
ジヒョクが振り返る。教室の騒ぎの中で、彼だけがテオの手元を見ている。消したはずの携帯電話が、もう一度ぶるりと震える。
画面は真っ暗なままだ。
それなのに黒い表面へ、濡れた紙に墨が染みるように、白い文字が一行浮かび上がる。
――次は、誰が払う。
黒い蝋燭にいじめっ子の名前を刻んだ夜、俺は裏社会の鏡王になった
12話 掌に残った黒い蝋燭跡
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