地下へ通じる格子が内側へ押し込まれる音と、郡コンベンションホール広場の拍手がそろって鳴る時刻は、ほとんど同じだった。
雨は細い。広場の石畳を黒く濡らすだけで、音を隠すほど強くない。仮設舞台の上では、町長エヴァン・プライスが州知事の随行団へ向けて白い歯を見せている。紺のスーツ、星条旗のピン、濡れないよう張られた透明の屋根。背後の大型スクリーンには、プライスの笑顔と「リハビリで立ち上がる町」の標語が大きく映っている。
「本日は、ブラスヒルが回復の町として歩みを進める、重要な夜です」
最前列の支援者たちが拍手する。少し遅れて、町職員の列が同じ拍子で手を打つ。さらに遅れて、招待された住民が周囲を見てから手を動かす。整えられた拍手は波ではなく、号令に近い。
記者席は中央後方にまとめられている。州知事の随行団は舞台左に座り、郡検察のオブザーバーはまだノートを閉じたまま、プライスの原稿ではなく客席の顔を見ている。
広場の端では、二人の男が別々に動く。どちらもこの町の顔ではない。濡れたキャップを深くかぶり、安い作業上着の下に硬いものを隠している。一人は東入口の臨時フェンス脇へ、もう一人は記者席の後ろから西側通路へ回る。マローンが送り込んだ外部の暴力要員だ。騒ぎが起きれば、彼らは誰かを殴り、誰かを倒し、プライスに「外部勢力の攻撃」を言わせるために来ている。
プライスはその二人を見ない。見なくても配置は知っている。彼の原稿の次の段落には、すでに言葉が用意されている。外から持ち込まれた暴力。住民の安全。秩序回復。州警察の介入ではなく、地元当局による迅速な対応。先に絵を作れば、あとから入ってくる証拠は混乱の一部にできる。
「私たちは、脅しに屈しません。私たちは、家族の再生を信じます」
拍手がまたそろう。
そこから二ブロック離れた学校の屋上で、ミゲルは膝をついている。フェンスの内側、雨で滑るコンクリートの上に弁当箱を開き、赤いドローンのバッテリーを押し込む。添え木を当てた人差し指と中指は、ネジを締めるたびに白く震える。
『一回目は見てた。二回目は探してた』
黒いピックアップがヘッドライトなしで正門前を二度通った夜のことを、彼は忘れていない。あの時、彼らは学校をただ通り過ぎたのではない。屋上へ上がれる階段、機材室、放送室、逃げ道を探していた。
今も正門前の道には車が一台もない。だから安全ではない。安全なら、むしろ一台くらい見せてくる。ミゲルはそう考え、屋上の出入口に細い針金を低く張る。開けられれば空き缶が倒れる。大きな音ではないが、自分には聞こえる。
赤い機体の尾灯を一度だけ押す。点は雨粒に滲み、すぐ消える。
「戻らなくても、映ればいい」
声に出すと、アルマの「生きても戻って」が胸の中で重くなる。ミゲルは唇を噛み、操縦端末を起動する。航路は手で覚えた。リハビリセンター裏庭。低く。フェンスの上ではなく、排水溝側から。そこからD-3換気塔を一度だけかすめる。
赤いドローンがフェンスの内側から浮く。プロペラ音は雨と遠い拍手に薄く混じる。ミゲルは機体を高く上げない。屋根の縁をなめるように出し、体育館の影から街灯の切れた通りへ滑らせる。カメラの小窓に、濡れた道路、空のバス停、リハビリセンターの白い外壁が順に流れる。
二機目の黒いドローンは、まだ彼の足元にある。こちらはD-3換気塔の上を低く回り、山道出口と南側分岐を見る機体だ。ミゲルは黒い機体のプロペラを指で一度回し、抵抗を確かめる。痛みで息が詰まるが、手は止めない。
同じ時刻、南の食料品店の冷蔵倉庫では、グラディスの外来受付端末が古い郡病院ロゴを青白く光らせている。肉の箱の上に置いた無線受信機の赤いランプは消えている。ディナは扉の内側に立ち、外の廊下の音を数える。冷気で白い息が出る。
「まだ?」
「まだよ」
グラディスは小さく答える。声を大きく出せば、端末の画面まで震えそうだった。彼女の指はキーボードの上に浮いている。送信予約は開かれている。添付ファイルは会計表、死亡診断書偽造の束、午前二時四分の七行、トミーの入院日、ミゲルの母の空白欄。すべてが待機中だ。
受信機が短く途切れる。
一秒。
二秒。
三秒。
無音が切れる。ノイズが戻る。
グラディスはまだ動かない。
もう一度、受信機が落ちる。三秒。倉庫の冷却機の低い振動だけが残る。ディナの手が、胸元の封筒ノートの写しを握りしめる。
ノイズが戻った瞬間、端末の小窓が変わる。
TRIGGER ACCEPTED.
グラディスは息を詰めて画面を見つめる。自動送信スクリプトが走り始める。添付名が上から順に緑へ変わる。州警察汚職捜査課。メンフィス通信社。地方紙二社。郡検察公開受付。再送予約。分割送信。ログ退避。
「走った」
ディナが言う。
「まだ見ないで」
グラディスは画面から目を離さない。送ったことと届いたことは違う。届いたことと読まれることも違う。だが、町の内側だけで消せる段階は越えつつある。
広場では、プライスが拍手の波を手のひらで押さえる。原稿の紙は濡れない。マイクはよく調整されている。すべてが、彼のために整っているように見える。
「この町に投げ込まれた混乱は、一部の外部勢力によるものです。彼らは、私たちの回復を妨げようとしている」
東入口の男が、作業上着の内側へ親指を入れる。西側通路の男も同じ拍子で一歩下がり、出口を狭める。暴力が始まる時刻に合わせて、入口は閉じられる。
その時、大型スクリーンのプライスの写真が一拍揺れる。
最初は雨のせいに見える。次に、標語の白い文字が横へ流れる。音響担当の若い男が卓のつまみを押さえ、舞台裏の職員が誰かを探す。プライスは笑みを崩さず、前回と同じ冗談を言おうとしてマイクへ口を近づける。
「どうやら、今夜も機械が――」
言葉は終わらない。
画面の上から、五方向の一覧表が流れ込む。PRICE FOUNDATION。MARTON SUPPORT。CONWAY REFINANCE。RAUK OFF-BOOK。MALONE TRANSPORT。同じ日付。同じ三万二千ドル。別名の口座をくぐり、同じ週に戻ってくる金の列。
記者席で、最初にペンが止まる。次にカメラのレンズが壇上から画面へ向く。州知事随行の一人が隣の耳元へ何かを言い、郡検察のオブザーバーがノートを開く。
プライスは笑顔のまま、顎だけを固くする。
「これは、明らかなシステムエラーです。皆さん、落ち着いて――」
画面は止まらない。表の右端に、フィントンの印影写しと、青いインクでなぞられた医師署名欄の画像が小さく並ぶ。さらに下段へ、午前二時四分の発行履歴が出る。七行。七つの識別番号。死亡欄だけが開かれ、死因が空白のままの行。
最前列で、ディナの席は空いている。だが彼女の隣に座っていた失踪者家族の女が、自分のバッグから折り畳んだ紙を取り出す。番号を見比べる。唇が動く。声は出ない。
整えられていた拍手が、ぎこちなく止まる。
東入口の男が一歩出る。騒ぎを起こすなら今だ。外部勢力の絵を作るなら、ここしかない。彼の手が上着の内側へ入る。
しかし大型スクリーンの五列目に、MALONE TRANSPORTの文字が拡大される。日付の横には、警備費の名目で外部の暴力要員へ現金が支払われてきたという生々しい注記が映っていた。
男の足が止まる。
その瞬間、冷蔵倉庫の受信機が、本来の二回ではない三度目の無音を吐く。グラディスが顔を上げる。ディナは扉へ振り向く。
ノイズの奥で、ヘナの声ではない誰かが短く叫ぶ。
「地下に入った」
法が遅すぎる町で、今日倒すべき悪党を倒す男
94話 教会地下に落ちた六人目
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